Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年1月24日 No.3116  企業のグローバルな発展に向けた人材マネジメント上の課題を聞く -産業問題委員会産業政策部会

経団連は12月11日、東京・大手町の経団連会館で産業問題委員会産業政策部会(伊東千秋部会長)を開催し、大・中規模の国際企業等を対象に経営幹部の教育を手がけるIMDの高津尚志日本代表から、企業のグローバルな発展に向けた人材マネジメント上の課題と解決の考え方について説明を受けた。概要は次のとおり。

■ 世界で勝てなくなった日本企業

日本企業はこの十数年、製品の発明は得意であっても海外市場において勝てない状況が続いており、その結果、先進国、新興国を問わず、その存在感・シェアは低迷している。このように日本企業が「グローバル化」でつまずく要因としては、(1)もはや競争優位ではない「高品質」に対するこだわり(2)いわゆる「生態系」の構築ではなく、モノしか見ていない視野狭窄(3)曖昧な地球規模の長期戦略と取り組みの遅れ(4)生産現場以外でのマネジメントの不手際――などが指摘できよう。

■ 「グローバル化」というパラダイムシフト

このような状況を生み出した根本的な背景としては、日本企業が「グローバル化」というパラダイムシフトを正しく認識してこなかったことがあるのではないか。2000年以降の「グローバル化」は、1980年以降の「G7、国内生産と輸出、モノづくり、Kaizen、ネイティブ・イングリッシュへの憧れ」といったキーワードに特徴付けられた「国際化」の時代とは異なり、「G20、現地での企画・開発・生産、『生態系』づくり、イノベーション、グローバル・イングリッシュの必要性」がカギを握っていると考えられる。しかしながら、日本企業の経営者の多くは「国際化」のなかで成長してきたため、こうした「グローバル化」の本質を容易に見抜くことができていない。

■ 「世界選抜チーム」化に向かう海外の一部の企業と日本企業との違い

他方、グローバル企業と称される海外の一部の企業は、いわば「世界選抜チーム」というべき社内体制をつくり上げている。例えば、同社の役員構成をみると、多国籍であるだけでなく、早い段階から将来のグローバルリーダーを選抜し、キャリア形成の過程で多大な人的投資を行っているため、役員一人ひとりの国際経験も極めて豊かなものとなっている。こうした取り組みは、全社的なグローバル戦略を展開するうえでも多大な効果を発揮している。

翻って、日本企業が今後グローバルに発展しようとするならば、「パスポートの色にとらわれず、グローバルなマインドセットを重んじて、地球上のどこででも事業を行える」という視点がより重要となる。しかし、多くの日本企業にとって、グローバル時代に世界の人材と協働していくためには、現在のような日本人の価値観だけでは十分に対応できないのではないか。

また、グローバル化が最も進んだ段階では、事業面においては世界のネットワークのなかで最適地を選択して対外直接投資を拡大し、人材マネジメントの面においては国籍を問わず適材適所の人材活用がなされる。国際的な取り組みが進んでいると一般的に見られている日本企業を、このような観点から再評価してみると、真の意味でグローバル企業とは呼べない。今後とも本社機能を国内に置き、日本人だけで競争を勝ち抜くことができるのか、再考すべき時期に来ているのではないか。

■ グローバル人材は各層で不足

事実、多くの日本企業からグローバル人材の不足が指摘されている。仮に、こうした人材を確保しようとするならば、「異国・異地域での機能運営」「異国・異地域での事業経営」「地球規模の全社経営」のそれぞれを担う層を段階的に育成することが理想である。しかし現実は、時間的な制約、上司が部下を潰すリスク等を考慮すれば、おのおのの層への必要な対策を同時に施さなければならない。その際に重要な点は、従業員のモチベーションを低下させないよう、とかく日本企業で乖離しがちな育成と登用の機会を連結させることである。

同時に、「類まれなオープンマインドさ」「大きな感受性・共感力」「世界のどこから来た人々とも、つながり、共に働く力」「他者への敬意」「文化的好奇心」「複数の言語能力」「実験を厭わない意思」「地球市民的行動と感性」といった資質・考え方も当然求められる。

■ 日本におけるダイバーシティの低下と「個」としての競争力、マネジメントポリシーへの懸念

グローバルで戦う日本企業に要請されるのは各市場で勝つためのイノベーションであるが、その要諦はダイバーシティからの価値創造である。かつてあった「日本の時代」、すなわち明治初期と戦後から高度成長期には、ダイバーシティは国内に満ちていた。

しかし、現在の日本企業において「新卒入社、日本人男性、正社員」が多数派を占めた結果、価値観は同質化し、意思決定層の情報と思考も均質化を招くこととなった。また、将来を担う日本人の若手社員の働き方もアジア各国と比較してハングリーさに欠け、英語力も乏しいという調査結果もあり、「個」としての競争力の低下が懸念される。

加えて、タレント・マネジメントにも他国との違いが表れている。従前、日本企業はチーム力で勝負してきたが、今後はチーム力と個の力の両方がなければ競争を勝ち抜くことはできない。そのためには海外で優秀な人材を採用する意思と、彼らを最大限に活用するための自由で寛容なマネジメントが求められる。

■ これからの日本企業が考えるべきこと

日本企業は、まず自社が世界で勝つために何をなすべきかという点に注力し、いったん「日本をどうするのか」という議論から距離を置いてみてはどうか。「日本」を客観的に見ることができれば、自ずと日本に依存し続けるリスクも認識できるだろう。あわせて、日本の人材を、世界の他の人材とあわせたかたちで俯瞰し、それぞれの特徴を活かしつつ、傑出した個人の周りにチームをつくり上げるといった方向で人材マネジメントが構築されるならば、日本企業はよりグローバルな発展が可能になると考えられる。

【産業政策本部】