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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年6月6日 No.3133 「財政ガバナンスの再構築」聞く -田中・明治大学公共政策大学院教授から/財政制度委員会

経団連の財政制度委員会(石原邦夫委員長、塚本隆史共同委員長)は5月24日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科の田中秀明教授から、「財政ガバナンスの再構築」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

1.わが国の予算制度の問題点

日本では、これまでも幾度となく財政再建が試みられたが、大半が失敗している。失敗の根本的な原因は、予算制度にある。

第一の問題は、景気変動に対応しつつ、安定的な財政運営を行う仕組みが欠如していることである。現行の財政法は、どんな不況にあっても、財政収支の均衡を基本原則としているが、特例公債の発行が恒常化し、機能していない。

第二に、支出コントロールが弱いことがあげられる。毎年の予算編成の基本となるのが、各省の予算要求の上限である概算要求基準(シーリング)である。しかし、シーリングは一般会計の当初予算のみが対象であるため、一般会計の歳出を抑制しても、補正予算や特別会計で歳出を増やせる「抜け穴」が存在する。

第三は、内閣府や財務省が作成する「中期財政計画」である。同計画は単なる見通しにすぎず、将来の財政運営を拘束しない旨の注釈もある。本来、財政再建とは、将来の予算を拘束することと同義といえるが、矛盾している。

第四は、予算編成に関する意思決定システムが断片化されていることである。予算編成をめぐって、政府の内外に「拒否権」を持つプレーヤーが存在し、首相や財務相もこれを制御できない。

第五は、予算の透明性が低いため、会計上の操作を抑止できないことである。その典型例が「埋蔵金」である。埋蔵金は特別会計の積立金であり、これを取り崩すことは会計上、国債の増発に等しい。

2.予算制度改革の具体策

日本ではこれまでも、財政赤字を抑制するための財政ルールが導入されてきたが、単にルールの導入だけでは不十分である。財政再建に成功した国は、ルールを守る(コミットメント)ための仕組みを導入している。そこで、実効性あるコミットメントの確立に向けて、三つの予算制度改革を提案する。

第一に、財政運営の枠組みを規定する財政責任法の制定である。そもそも財政法には、目的規定さえ存在しない。また、昨年には、特例公債の発行を2015年度まで認める法律も成立、現在、財政法のルールは全く機能していない。財政再建を目指すならば、財政法を抜本的に改編し、財政責任法とすべきである。

第二に、拘束力のある中期財政計画と支出ルールの構築である。これに基づき毎年度の予算編成を行うとともに、複数年度にわたる支出のシーリングを設け、新たな支出には、財源の手当てを義務づけるルールを課す。さらに、政府の財政運営が目標に向かっているかを半年ごとに検証し、そうでないならば、政府はその理由と是正する方法を説明するべきである。

第三に、独立財政機関の設置である。財政規律を維持することが難しいのは、楽観的な成長率、会計上の操作など、政治的なバイアスが働くからである。これを是正するため、専門家で構成される委員会や行政組織を設置することが求められる。

予算制度改革は、政治改革と同義である。財政再建が難しいのは、政治家が自らを律する問題だからである。安倍政権は順調な滑り出しだが、それは過去の失敗を学習しているからだ。財政再建についても、過去の失敗から学び、改革を進めていかなければならない。

【経済政策本部】

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