経団連の企業行動委員会社会的責任経営部会(有原正彦部会長)は1月24日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、人権教育啓発推進センターの横田洋三理事長から人権・労働慣行に関する課題を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 「企業と人権」
ILO(国際労働機関)は「企業と人権」というテーマを初めて扱った国際機関である。20世紀は経営者と労働者が常に対立構造としてとらえられ、多くの紛争の原因となった。このような反省から、「労使対立」を「労使協調」へ導くことで、世界平和につなげたいというのがILO創設の背景である。
ILOの主な活動としては、条約や勧告による国際労働基準の設定と、採択された条約の各国政府による遵守状況の監視がある。労働者の権利を守る活動から人権を守る活動へのシフトが最近、特に顕著である。
日本では従来、「経済学・経営学」と「人権分野」のそれぞれの専門性の厳格さから、相互の関係性やバランスを対象とした研究はほとんど行われなかった経緯があり、結果として「企業と人権」に関する研究は遅れていた。このような状況では、経営者が人権というテーマに触れる機会は、実際のビジネスのなかで発生した問題に対応する場面に限られていたというのが実情であろう。
■ 企業における取り組みの必要性と今後の課題
現在では、被差別部落の問題をはじめとして、多国籍企業をめぐる女性差別や人種差別の問題など、人権を守らない場合のリスクが顕在化しており、国際的な潮流のなかで、企業がリスクを正しく認識し対応する必要がある。自由権や財産権といった基本的人権がなければ企業は成り立たない。私自身、国連人権委員会ミャンマー担当特別担当者であった当時、人権が制限されている国では自由な経済活動が行えないことを目のあたりにした。
一方で、人権をリスクとしてとらえるだけではなく、人権の尊重は企業の成長にも必要なものととらえてほしい。積極的に女性や高齢者といった社会的弱者やマイノリティーの考え方を受容することは、人権という観点だけでなく、企業イメージの向上や社員のロイヤリティーの向上、市場の拡大による企業の成長といった経営戦略の観点からも有意義にとらえることができる。
現代的な課題としては、バリューチェーンにおける人権問題が挙げられる。ISO26000は、「加担の回避」という文脈でバリューチェーンにおける人権問題に対しても責任があるという考え方を取る。米国企業では、取引先と契約を結ぶ際に人権に関する項目を入れる例が多い。人権に関する項目を設定する際は、ジェンダー差別や人種差別、児童労働を特に重視する必要がある。
また、ISO26000には、ラギー報告を引用したデュー・ディリジェンスという概念がある。米国では、これを「『相当の注意』を行っていれば、責任は回避できる」という解釈のもとで対応を行っているが、人権団体などはこの解釈では、対応が不十分とみなしており、この用語を適用する際には注意が必要である。
【政治社会本部】