Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年3月20日 No.3170  「今後の住宅市場を考える」 -リクルート住まい研究所の矢部主任研究員から聞く/住宅政策委員会企画部会

経団連の住宅政策委員会企画部会(立花貞司部会長)は2月27日、都内で会合を開催し、リクルート住まい研究所の矢部智仁主任研究員から、「今後の住宅市場を考える」をテーマに講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

1.住宅市場の動向

現在の住宅市場では、おおよそ消費者は一生のうちに一度か二度しか住宅を購入しない構造となっている。その構造が大きく変わらないとすれば、市場規模は人口・世帯数や取得能力の変化によって制約を受けることになる。そこで住宅市場を、(1)人口・世帯数(2)取得能力(3)取得意欲――の三つの要素に分解して、足元の動向をみてみたい。

まず、人口・世帯数について、住宅購入意欲が高い25~39歳の人口は過去30年間大きな変化はない。また、収入減や晩婚化等により住宅取得時期が遅れていることを踏まえ、対象年齢を44歳まで広げて考えれば、今後10年程度は一定の需要ボリュームを見込むことが可能かもしれない。

次に、取得能力をみる一例として国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、30代、40代の男性の給与所得は1997年をピークに右肩下がりを続けている。ただし、総務省「労働力調査」によれば2000年以降、共稼ぎ世帯の数が増加し、すでに共稼ぎ世帯数がシングルインカム世帯数を追い抜いている。男性の給与所得が落ち込むなか、共稼ぎとなることで、世帯単位では住宅取得能力を維持してきたとみることができそうである。

取得意欲についても、総務省「家計調査報告」にある、勤労者世帯の持ち家率を例にとれば、05、06年のいわゆる「プチバブル」といわれていたころに大きく上昇し、70%を超えた。リーマンショック後も持ち家率が大きく低下することはなく、70%台を維持している。

このように、「当面」は人口・世帯数は一定の規模を維持し、取得能力や取得意欲についても、大きく低下することはなさそうだと考えられる。つまり、短期的には住宅市場が大きく崩れることはないとみている。

しかしこれから20~30年後を考えると、人口・世帯数については団塊ジュニア世代以降の世代で少子化による減少が続き、所得についても右肩上がりに転ずる見通しは持ち難いといえそうである。取得意欲についても十分なストック形成がなされた市場において、現在のような高い動機が形成されるかは不透明なところである。

2.住宅市場の変化とその背景

戦後の近代化の過程において、わが国では人口や産業が三大都市圏に集中し、産業・就業構造も大きく変化した。言い換えれば、定住性・共同体を基盤としたムラ的な社会から、流動性・個人化という志向、価値観を背景に都市的な社会が形成される過程でもあった。さらに都市化された社会が安定に向かうなかで定住性志向が強まった。このような志向の変化が現実の住宅市場にどのように反映したか。それは、いわゆる核家族となった世帯単位で、世帯主の長期安定雇用を背景としたローンの獲得による都市部での住宅取得実現という市場形成の過程と重なるものといえる。このように住宅市場を動かすメインシステムが形成される一方で、需要単位の「核化」は、身近なコミュニティーに閉じこもるという意味で「殻化」という側面も生み出してきた。

前述の市場形成のメインシステムは人口や世帯の拡大、経済成長の環境下で機能してきたが、経済の停滞や人口の縮退予測のなかで需要サイドに変化の兆しがみえつつある。雇用の流動化(働き方の柔軟化)、消費単位の核化といった流動性や個人化への再回帰がみえ始めた際に、行き過ぎた核化・殻化に耐え切れず、言い換えればリスクを個人で背負いきれず、それまでメインシステムに集中していた消費者の志向が拡散していく兆しである。もちろん、不安だからこそ従来的な手堅いものにより強く向かう方向性もある一方で、拡散の方向は多様であり、例えば人間関係の充実や人とのつながりを求める志向、いわば共同体化といった個人化と対をなす方向性も一つの例である。

このような視点はあくまでも背景理解のためであり、実際の市場にどのように映し出されるかは別である。では具体的な市場に起こる変化の兆しにはどのようなものがあるか。従来的な郊外一戸建の取得を目指す消費者も残る一方で、シェアハウスへの注目、既存住宅を購入してのリノベーションあるいは賃貸住宅のカスタマイズといった動向の顕在化は一つの吹き出しといえる。

いずれにしても住宅供給事業者はこのような志向の変化を踏まえ、多様化する消費者の住宅ニーズに応えていかねばならない。このとき、カギになるのがLocalなマーケティングだと考えている。

高度成長期は住宅が圧倒的に不足していたため、短期間で大量の住宅を提供することが求められていた。そのような環境下ではNationalなルールが有効であり、そのおかげでわが国は豊かな住生活を築くことができたことは事実である。

しかし将来的な市場を考えれば、Nationalなルールに従い、住宅市場のメインシステムに乗った市場でビジネスを進めるうえでは、今以上の競争激化を覚悟する必要があるということである。一方で、そこから拡散した消費者の志向、地域や個人の多様な価値観をくみ取っていく、そのような市場を想定した場合には従来のようなNationalな一律的なマスマーケティングではなく、Localなマーケティングが重要となっていくはずであり、さらにいえば消費者や地域の「コト(生活・暮らし)」に関わっていくことが住宅ビジネスに求められているといえるだろう。

【産業政策本部】