Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年3月20日 No.3170  21世紀政策研究所が第103回シンポジウム開催 -「原子力損害賠償制度の在り方と今後の原子力事業の課題」で議論

21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は2月21日、第103回シンポジウム「原子力損害賠償制度の在り方と今後の原子力事業の課題」を開催した。

当日は会員企業、有識者、政府関係者、メディア関係者等173名が参加した。同研究所は澤昭裕・研究主幹のもと原子力損害賠償・事業体制検討委員会(主査=森嶌昭夫・名古屋大学名誉教授、副主査=竹内純子氏)で研究を重ね、その成果として昨年11月に政策提言「原子力事業環境・体制整備に向けて」、報告書「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」を発表した。同提言・報告書は政府のエネルギー基本計画の検討にも影響を与えるものであり、今回のシンポジウムでは、こうした政府の検討状況を踏まえつつ、原子力損害賠償制度の問題点とその解決の方向について議論した。

■ 研究報告

冒頭、澤研究主幹は政策提言のポイントとして、第1に、原子力を維持していくとすると、原子力をめぐる政治的不透明性を払拭し、電力システム改革やバックエンドに関する政策的透明性を確保するとともに、規制の予測可能性の改善が必要であると述べた。第2に、そのためには電力システム改革後における原子力事業の位置づけ、リプレースの認容、バックエンド政策の明確化に加え、原子炉等規制法の改正による規制の適正化のほか、事業者の資金調達に対する公的支援等を含む総合的な解決策を提示する必要があるとした。

次に、竹内副主査が報告書に沿って説明し、現行の原子力損害賠償法の問題点として、不法行為法による私人間紛争処理や金銭賠償にとどまることの限界などを挙げた。また、これらの解決に向けた同法改正の視座として、(1)事業リスクの限定と官民のリスク分担の在り方(2)賠償保険カバー額引き上げの必要性――などの論点を示した。

■ パネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、森嶌主査、高橋滋・一橋大学副学長、丸島俊介・原子力損害賠償支援機構理事、井上博雄・内閣府原子力被災者生活支援チーム参事官の参加を得て、民法、行政法、賠償の現場などそれぞれの専門的な見地から議論を展開した。

議論のなかでは、大量の案件に適用するためには、ある程度画一的な処理基準を示す必要があるが、同時に個別の実情に即し賠償していく柔軟性が必要、といった運用制度上の課題が提示された。一方、賠償額の不公平感などにより、賠償制度が逆に復興を阻害してしまっている可能性が指摘されたほか、賠償金で住居を再建できても、コミュニティーや雇用の場が喪失し生活できない実情などが指摘された。さらに、原子力被害者救済は従来の損害賠償にとどまらず、地域再生も組み込み、国も前面に出る新しい補償制度の必要性が提起されるなど、制度そのものの見直しに関する意見が出た。これに加え、自由化が進んだ際の賠償資金の確保、賠償における行政の責任と行政機関間の権限を明確化する必要性が指摘された。

議論を通じて、同制度には大量案件の処理と個別性、柔軟性と公平性といったトレード・オフの問題が多く含まれており、現場での対応が困難な制度設計になっていることがあらためて確認された。

21世紀政策研究所では、これら論点について検討を深め、引き続き政府・与党へ働きかけていくこととしている。

シンポジウムでのディスカッション

【21世紀政策研究所】