経団連は3月13日、都内で教育問題委員会企画部会(岩波利光部会長)を開催し、筑波大学大学研究センターの金子元久教授、ならびに早稲田大学理事・政治経済学術院の田中愛治教授から、大学のガバナンス改革に関する考えについて聞くとともに懇談した。
■ 全学的な教育ガバナンスの構築が必要
金子教授はまず、「社会と大学との関係が変化するなかで、変化に対応した大学の組織変革は必要だが、782校ある日本の大学は、規模も1万人以上のものから1000人未満のもの、また経営形態も多様ななかで、一律の改革モデルや制度的枠組みをはめることは生産的ではない」と指摘した。そのうえで、大学改革の焦点は大学教育の改革であるとし、「米国の大学生と比べて、日本の学生は学習時間も短く自律的な勉強ができていないことが問題である。学部の枠を越えた全学的な教育ガバナンスを構築したうえで、個々の学生の学習状況を把握し、教育方法を評価し、その結果を教員にフィードバックするというPDCAサイクルを回すことが必要である」と述べた。また、大学教育のイノベーションは中小の大学から起きていることを踏まえ、「大学の情報公開を推進し、社会からの圧力による前向きな競争を形成する必要がある」と述べ、2014年度から本格的に実施される「大学ポートレート」の開示内容の拡充を求めた。
最後に産業界に対しては、日本企業は新卒一括採用が主流で、知識も職場での職務経験を通じて習得する知識が重視され、大学で学んだ専門知識への評価が低いこと、また大学院での学び直しに前向きな企業は依然として少数である点を指摘、「職場における知識・技能の活用の将来像を示してほしい」との期待を示した。
■ 英米の大学ガバナンスの比較と日本への示唆
田中教授は、ヒアリング結果に基づく英国と米国の大学ガバナンスの特徴を比較し、「米国のトップ大学はProvost Office(注)が予算と教員数に関する権限を持つ中央集権型、英国のトップ大学はその権限が各Division(学部)に配分されている分権型であるが、英米トップ大学に共通しているのは、世界でトップレベルの教員だけを採用するという価値観を全教員が共有し、教員採用において透明性と競争性が確保されること」と指摘した。
そのうえでわが国における大学への示唆として、「日本の教授会の問題は、教員人事や入学者選抜、カリキュラム編成などの権限を持っているのに責任を問われないことにある」とし、「権限と責任が一致する体制をつくることが必要で、理事会・学長に権限を与えるのであれば、その結果への責任も問う体制にする必要がある。あわせて教職員の間でグローバル・スタンダードの教育・研究を行うという価値観を共有することや、教育に手を抜かないという価値観を浸透させること、教員をサポートする職員の採用と育成などが必要である」と指摘した。
(注)Provost Office(総括副学長)=大学全体の予算や人事、組織編成等の調整権を持ち学長を総括的に補佐する副学長
【社会広報本部】