経団連の企業行動委員会社会的責任経営部会(有原正彦部会長)は3月28日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、ISO認証審査登録機関であるロイドレジスタークオリティアシュアランスリミテッド(LRQA)の冨田秀実経営企画・マーケティンググループ統括部長から、社会的責任に関するガイドライン(ISO26000)発行後のCSRをめぐる国際動向を聞くとともに、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。
■ ISO26000発行後の動き
2010年のISO26000発行後、その使用の好事例や問題事例を判断するための情報を収集し、ISO中央事務局に報告すること等を目的として、PPO(Post Publication Organization)が新設された。PPOは、「ISO26000の良い利用方法と支援ツールについてのPPOの考え方」(12年3月)を発行し、「ISO26000使用プロトコル」(12年4月)では、同規格を使用する際の適切な表現と不適切な表現を示している。
国際的な動向としては、ISO26000認証に向けた国内規格の策定や自己宣言のためのガイドラインを発行する国も出てきていることが12年の国際会議で報告されている。
現在ISO26000発行から3年が経過し、ISOのルールに基づき、見直しの各国投票が行われている。現時点では、廃止となる可能性は低いだろう。
■ ポストISO26000の重要な動き
EUでは11年に「CSRに関するEU新戦略2011-2014」と題する政策文書を定め、ISO26000等の国際的基準・原則に基づき、欧州企業のCSRに関する積極的な取り組みを促進している。
こうしたなか、非財務情報開示の法定化の動きも活発化している。13年4月に公表されたEU指令の改訂案は、大企業に対して、(1)アニュアルレポートでの環境・社会・従業員関連事項(2)人権の尊重(3)腐敗防止・贈収賄防止――等を含むステートメントを要求している。
任意での非財務情報の開示については、そのフレームワークである「GRIガイドライン」(注)の第4版が13年5月に発表された。主な特徴は、経営、環境、社会に対して重大なインパクトを与える重要な側面を特定し、その側面に関連した情報を報告すべきとされている点等である。また、国際統合報告委員会(IIRC)が、従来から検討してきた「国際統合報告フレームワーク」の初版を13年12月に公表するなど、今後の動向が注目されている。
米国では、SASB(Sustainability Accounting Standardization Board)が、証券取引委員会(SEC)へ提出する年次報告書において、サステナビリティ情報の開示を義務化させようとしているが、SECがこの開示基準を採用するか否かは、現時点では未知数である。
■ これからの時代に求められるCSR
現在、CSR報告書等を作成するうえでのツールは揃っている。今後はそれらを活用することが求められており、重要となるのは、次の3点である。第1は、CSRを専門部署の取り組みにとどめることなく、経営者が参画を果たし、ガバナンスを含めたCSR全体の取り組みを推進することである。第2は、企業や組織は、事業が社会等に与える正負の影響を考慮したうえで、重要と考えるテーマをマテリアリティとして同定し、情報開示を行うことである。第3は、国境を越えて展開されるバリューチェーンに対し、適切に影響力を行使していくことである。
(注)GRIガイドライン=組織がサステナビリティ報告書を作成するための報告原則、標準開示項目および実施マニュアルを提供する国際ガイドライン。GRIはオランダに本部を置くNGOで国連環境計画(UNEP)の公認協力機関
【政治社会本部】