Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年9月11日 No.3191  21世紀政策研究所が第109回シンポジウム開催 -「原子力安全規制の最適化に向けて」

説明する澤氏

21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は8月28日、東京・大手町の経団連会館で第109回シンポジウム「原子力安全規制の最適化に向けて」を開催した。

同研究所では、原子力安全規制に関し、澤昭裕研究主幹を中心に検討を重ね、今般、今後の規制活動のあり方や必要な法改正案を盛りこんだ報告書を取りまとめた。シンポジウムでは、研究成果の報告とパネルディスカッションが行われ、会員企業はじめ各界から337名が参加した。会合の概要は次のとおり。

■ 研究報告「原子力安全規制の問題点と改善の指針」

澤主幹はまず、原子力規制委員会の現状について、「原子力施設を安全に稼働させる」という本来の目的を見失い、実現不可能なゼロリスクを目指しているようだと指摘。また、専門家、事業者との情報交換を過度に制限しているため、事業者に対し明確な基準を示せず、抽象的な注文をくり返していると述べた。他方、事業者側も、規制委員会対応に終始し安全性向上への自主的な取り組みが結果的に不十分となっていると指摘した。そのうえで、安全規制の本質は、事故発生確率およびその影響度等から算出されるリスクを最小化することであるとして、事業者が安全の第一義的責任を負うことを再確認した。

さらに、規制委員会改善の方向性として、(1)米国の規制の仕組みに倣って、具体的な活動原則等を定める(2)バックフィット(規制基準の遡及適用)の範囲等を政省令で定め、審査会合等で示した見解を文書化・蓄積し、規制プロセスを適正化する(3)原子炉安全審査会等を活用して外部知見を取り入れるとともに、リスク評価機関を分離するなど意思決定プロセスを整備し、40年運転期間制限の問題等に取り組むべき――などを示した。

事業者については、(1)確率論的リスク評価(PRA)を取り入れた安全性向上評価を積極的に行う(2)業界内で自主的な安全性向上の取り組みへの動機づけが働くシステム(事業者間事故時相互扶助制度等)を設計する(3)地域住民と積極的に対話する――などが必要と述べた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、澤主幹をモデレータに、尾本彰・東京工業大学特任教授(工学)、櫻井敬子・学習院大学教授(法学)、佐々木宜彦・電力土木技術協会会長(元原子力安全・保安院長)、山口彰・大阪大学大学院教授(工学)の間で討議が行われた。

尾本氏は、「規制委員会については発足後短期間での新基準策定等の努力を評価するが、委員の個別技術検討関与、独立委員会としてのあり方、判断基準の明示など、運営方式で米国規制委員会など良好事例に学ぶところが多数ある。国、事業者ともPRAの知見等を参考にして残余のリスクへの取り組み姿勢を示し、議論を尽くすことが信頼につながる」と指摘した。

櫻井氏は、「規制委員会は、事業者対応のノウハウを蓄積して成熟していくべきであり、独立性を理由に他の行政機関との協議を拒むべきではない。また、災害対策に関し国のプレゼンスが限定されている点や、地方自治体と事業者との関係が曖昧なかたち(安全協定)で規律されている点は改善すべき」と述べた。

佐々木氏は、「異常な事象には別途対策を講じるべきであり、設計段階であらゆる事象への対応を要求する思考は誤りである。また、事業者は、米国INPO(原子力発電運転協会)やNEI(原子力エネルギー協会)に倣い、充実した議論ができる実力をつけるべきである」との見解を示した。

山口氏は、「規制活動をしっかりしたものにするためには、文書化と説明義務が必要である。また、実効性ある防災計画をつくるために、事業者は放射性物質放出時のシナリオとその対策を情報提供し、国は安全目標等を考慮して、これに対する評価を明らかにすべきである」と述べた。

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シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】