経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で国民生活委員会消費者政策部会(高山靖子部会長)を開催し、国民生活センターの松本恒雄理事長から、「『企業』とそれを取り巻く『消費者』『行政』の『これまで』と『これから』」と題する講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。
■ 消費者政策の動向
日本の消費者政策は、1960年代の行政による事前規制中心の「第1の波」、裁判で行使可能な権利を消費者に与える90年代の「第2の波」、そして市場を利用して消費者保護を図る2000年代以降の「第3の波」に分けることができる。このうち、市場を利用した消費者保護とは、例えば、金融商品の販売にあたって勧誘方針を策定させ、それを公表させることによって不適切な勧誘を行わないようにするなど、企業自身の自主的な取り組みと市場でのその評価を機軸とするものである。
かつて、消費者問題は企業と消費者の間の市場で生じるトラブルに対して、行政が規制を行うという構図であったが、近年は、企業・消費者・行政の相互関係としてとらえるのが適切である。
■ 国民生活センターの役割と課題
国民生活センターは発足以来40年余りが経過した。センターのあり方をめぐっては、2010年の事業仕分け、閣議決定で廃止を含めた検討が行われてきたが、昨年12月の閣議決定により「中期目標管理型法人」として存続することが決定した。
国民生活センターは、(1)消費者相談(2)相談情報の収集・分析・提供(3)商品テスト(4)研修(5)広報(6)裁判外紛争解決手続――の六つの中核業務を相互に補完しながら一体的に運用している。それらを通して行政や事業者団体に対する政策提言、地方支援、国民・消費者に対する注意喚起を行っている。
最近では、海外の事業者との取引による越境消費者トラブルが増加しており、今後、海外のカウンターパートと連携をしながら、国民生活センターが中心となってトラブル対応に取り組んでいく予定である。国民生活センターは行政そのものではなく、事業者・消費者・行政をつなぐ位置にある。今後も消費者問題のナショナルセンターとして活動を行っていきたい。
■ 企業の社会的責任と消費者市民社会
60年代から70年代における「企業の社会的責任」とは、「法的責任」ではない企業の責任としてとらえられていた。しかし、現代では、株主、労働者、消費者といったステークホルダーに対する「対社会的責任」としてとらえられている。
社会的責任に関する国際規格であるISO26000では消費者課題を七つ列挙しているが、そのなかでも「持続可能な消費」「教育および意識向上」が組織の社会的責任として挙げられている点が興味深い。他方、消費者教育推進法では、消費者自らが個々の消費者の多様性を尊重しながら、持続可能な社会の形成に向け積極的に参加する「消費者市民社会」の構築がうたわれている。今後、事業者には社会的責任の一環として、消費者教育への一層の取り組みが求められる。
【政治社会本部】