Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年12月4日 No.3203  マイナンバー導入における企業の実務対応<1> -マイナンバー制度とは

富士通総研経済研究所主席研究員
榎並利博

2016年1月にマイナンバー(社会保障・税番号)の利用が開始される。そこで、マイナンバーが企業実務に与える影響や具体的な対応について7回にわたり解説する。

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マイナンバー制度を一言でいえば、国民一人ひとりにマイナンバーを付け、法人には法人番号を付けて、行政手続きを効率化するとともに国民の利便性を高めようということだ。法人に関してはプライバシー問題とは無関係のため、法人番号はインターネットで公開され、誰でも自由に使える。一方、マイナンバーはプライバシー問題に深く関わるため、個人番号カードを交付し、個人情報の保護に注意を払いながら使っていくことになる。

10年前稼働した住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)の住民票コードは、秘匿すべき番号であり「他人に見せてはいけない」「民間企業での利用を一切禁止する」など非常に制約の強い番号であったため、実質的に社会のなかで使われる番号制度にはならなかった。これに対してマイナンバーは、明示的に他人に見せて使うことができ、民間企業でも社会保障や税の手続きで使っていかなくてはならない。個人番号カードにはマイナンバーと顔写真が記載され、他人のマイナンバーをかたる「なりすまし」を防ぐという役割を果たす。

マイナンバー制度の特徴とは、情報提供ネットワークを使用して個人情報のやり取りを実現することにある。マイナンバー制度が実現しても個人情報が一元管理されるわけではなく、それぞれの機関が個人情報を従来どおり分散したかたちで管理する。情報保有機関ではマイナンバーの付いた個人情報を持っているため、お互いにマイナンバーで個人情報を突合することができるが、勝手に情報交換を行うことは法律違反となる。

相手の個人情報を利用する場合、必ず情報提供ネットワークを介して個人情報を提供してもらうことがマイナンバー制度のルールである。例えば自治体の現場では、各種証明書などを添付した届出・申請などの手続きが行われている。住民は各情報保有機関から証明書を発行してもらい、それを届出・申請書等に添付して自治体の窓口に提出するという面倒な手続きを行っているが、今後はそのような証明書を添付する必要がなくなる。手続きで必要な証明書の情報は、自治体職員が情報提供ネットワークシステムを介して、情報保有機関から直接入手可能となるからだ。

なぜわざわざ情報提供ネットワークシステムを介して、個人情報のやり取りをするのか。情報提供ネットワークシステムでは、相互の個人情報のやり取りが適法であるかを常にチェックし、違法な個人情報の提供を排除すると同時に、個人情報の取引をすべて自動的に記録している。特定個人情報保護委員会や国民自らがマイ・ポータル(注)を介してこの記録にアクセスし、情報保有機関の行動を逐一監視していくことで、国民の個人情報を保護していくことができる。

(注)マイ・ポータル=行政機関がマイナンバーの付いた個人の情報をいつ、どことやりとりしたか確認できるほか、行政機関が保有する個人に関する情報等を自宅のパソコン等から確認できる

番号制度のイメージ
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次回は「民間企業実務への影響とその対策」について解説する。

執筆者プロフィール

榎並利博(えなみ・としひろ) 富士通総研経済研究所主席研究員
1981年富士通入社。96年富士通総研へ出向。新潟大学、中央大学、法政大学の非常勤講師および早稲田大学公共政策研究所客員研究員の兼務を経て、現職

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