21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は11月17日、「独占禁止法審査手続の適正化に向けた課題の研究」(研究主幹=上杉秋則・フレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンガー法律事務所シニアコンサルタント)の一環として、スコット・ハモンド元米国司法省反トラスト局次長との懇談会を開催した。同氏は2013年まで25年間米国の司法省で検察官として勤務し、そのうち8年間は反トラスト局の最高位職である刑事執行担当次長を務め、現在はギブソン・ダン&クラッチャー法律事務所のパートナーとして活動している。同氏は司法省勤務時代に多岐にわたる国際的な反トラスト案件を手がけており、米国だけでなく各国の競争法に関する実務や政策に精通している。懇談会では、日本と各国の制度の違いについて、さらに日本の制度に対する評価および改善案などについて率直な意見を聞いた。
同氏からは、日本の現在の独占禁止法の制度について、審査の段階において企業に基本的な防御権がないこと、企業と当局とが協力するインセンティブが欠けていることなど、国際的なスタンダードが備わっていないとの指摘がなされた。
防御権については、他の法域のように日本も弁護士がより審査手続に関与できる制度にすべきであると述べた。例えば他の国・地域のように任意聴取へ弁護士の同席を認めることで効率的に聴取を実施したり、供述内容について弁護士が確認することで公正性、透明性について改善を図ることが可能であるとした。しかも、これらは現在の法律を変更することなく実施することが可能である。
さらに、現在日本にないとされる弁護士・依頼者間秘匿特権(注)も認められるべきであると述べた。弁護士・依頼者間秘匿特権は司法制度の基礎をなしており、現在では大部分の国・地域に存在している。シンガポールや香港が導入し、韓国も導入予定であるなど、アジア諸国でも確立しつつある制度であり、そう遠くない将来には、日本と中国だけが認めていない状況になるおそれがあるとの懸念を示した。
公正取引委員会による調査への協力のインセンティブについては、企業の協力に応じて認められる課徴金の減額率に40~60%といったように幅を持たせることが提案された。導入する際には、当局による裁量権の濫用を防ぎ、不確実性をなくして予測可能性を高め一貫性を持たせるために、運用に関するガイダンスを公表して透明性を高めたり、裁判所など司法に救済を求めることができる制度を同時に整備する必要があると述べた。
また、日本では公取委と産業界が敵対的とのイメージがあるが、こうしたイメージが流布すること自体、日本の競争政策が機能不全に陥っている証左であると評価し、公取委の法執行が公平かつ効率的で、日本の産業界や消費者の最善の利益に資するというイメージを確立すべきであるとした。
同研究所では今回の調査結果を踏まえて、来年3月をめどに研究成果を取りまとめる予定である。
(注)弁護士・依頼者間秘匿特権=弁護士が依頼人に対して法的な助言を与えた場合、その通信の内容、情報が開示の対象から免除・保護されること
【21世紀政策研究所】