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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年1月28日 No.3255 「生物応答を利用した排水管理手法(WET手法)の活用の再考を求める」を公表

経団連は19日、環境省が昨年11月に取りまとめた報告書「生物応答を利用した排水管理手法(WET手法)の活用について」に対し、意見書を公表した。

WET手法とは、希釈した排水のなかで水生生物の生存、成長、生殖に与える影響を測定し、工場等からの排水全体が有毒かどうか評価する手法である。報告書では、同手法を当面、事業者の排水管理に関する自主的取り組みとして位置づけ、事業者による取り組みを促すとしている。

意見書の概要は次のとおり。

■ WET手法をわが国で活用することの問題点

WET手法の活用には、工場排水に含まれる化学物質と水生生物への影響との因果関係、分析結果を踏まえた水質改善対策が不明確であるといった問題がある。また、WET手法の本来の目的である、公共用水域における生物多様性の確保や化学物質による水生生物への影響の把握には、工場排水のみならず、下水や農業用排水の流入がある公共用水域を含めた検討が必要である。

さらに淡水生物や外来種を用いて試験することの妥当性に疑義がある。また、信頼性のある試験機関が十分確保できておらず、使用する生物種の安定供給が担保されていない。

わが国と諸外国の排水管理制度に違いがあるなか、諸外国が活用しているWET手法を個別物質規制の補完として導入すれば、過剰規制となる懸念がある。

■ WET手法が企業経営に与える弊害

WET手法を活用するには事業所ごとに1000万円超という莫大なコストが必要となる可能性がある。

科学的知見が不十分なために、WET手法の結果とあわせて具体的な改善策を地域住民に説明できず、地域住民との信頼関係に支障を来すおそれがある。

■ 政府が自主的取り組みと位置づけて推進することの問題点

自主的取り組みは、本来、産業界自らがその意義を理解したうえで取り組むものであり、政府が事業者の自主的取り組みとしてWET手法の活用を促すべきではない。政府が普及促進策を打ち出すことで、自治体による条例制定につながることが懸念される。

自主的取り組みの法的根拠として水質汚濁防止法の事業者の責務規定を挙げているが、同規定は毒性影響が明らかでない物質を確認する趣旨ではない。同項にWET手法を結びつけると、試験結果によっては水質汚濁防止法との関係で大きな問題となる。

産業界は、環境基本法や水質汚濁防止法に基づき、人の健康の保護と生活環境の保全のために必要な政策には可能な限り協力し、わが国の水質改善に大きく寄与してきており、そのスタンスは今後も変わるものではない。

しかしながら、WET手法の活用には、前述のように、極めて多くの課題が存在する。政府は、排水管理手法としてWET手法の活用を促すべきではなく、その活用を推進する必要性を根本から再考すべきである。

第三次安倍内閣は、日本経済の再生を最優先課題に掲げ、産業界に設備投資や賃金引き上げ等を求めている。その実現には、いわゆる「六重苦」の解消など、国内の事業環境整備が不可欠である。水質改善規制に加えてWET手法を新たに補完的に導入すれば、工場等の立地条件は悪化し、経済再生の足かせとなる。環境政策の立案・遂行にあたっては、経済との両立を十分に考慮すべきである。

※意見書の全文は経団連ウェブサイトに掲載

【環境本部】

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