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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年2月11日 No.3257 「教育に科学的根拠を」 -中室慶應義塾大学准教授に聞く/教育問題委員会企画部会

経団連の教育問題委員会企画部会(三宅龍哉部会長)は1月20日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子准教授から、教育投資の費用対効果をどう評価するか、またそれらを日本の教育政策にどう反映させるかなどの説明を聞くとともに意見交換した。

■ データに基づく科学的根拠を示して戦略的に予算獲得を

まず中室准教授は、ブッシュ政権下で成立した「落ちこぼれ防止法」(注)などにより米国では、「教育政策を決定する際、ランダム化比較試験と呼ばれる社会実験を行い教育政策の効果を測定することが主流となっている」と説明した。そしてわが国の公立小学校でも導入されている少人数学級については、「米国で実施された複数の実験結果で、低学年の子どもや黒人、貧困層の子どもの学力を上昇させるには少なからぬ効果がみられるものの、他の政策と比べて費用対効果が低いこと、他の先進国でも同様の結果が出ていること」を指摘し、「少子化もあって教育分野への予算が減少傾向にあるなか、予算獲得は悩みの種である。日本で実施されてきた教育政策は費用対効果が低いことが明らかになっているうえ、2020年までにタブレット1人1台など、本来、政策手段であるべきものが政策目的化してしまっている。このため、予算獲得の根拠と説得性に欠け、教育財源の確保を困難にしたのではないか」と述べ、少子化のなかで教育財源を確保するには、データに基づく科学的根拠を示し、戦略的に予算を獲得する必要があることを訴えた。

(注)落ちこぼれ防止法=01年に米国で制定された、初等中等教育に関して、各州に対し学年レベル別に教育上の達成基準を定めることを義務づけた法律。教育政策に対して科学的根拠を求めた。

■ 教員の質の重要性

中室氏はさらに、5年後を考えて、いま投資すべき分野として、幼児教育と教員の質の向上を指摘。幼児教育については、米国で低所得のアフリカ系アメリカ人の3~4歳の子どもを対象に実施された「ペリー幼稚園プログラム」実験でも、質のよい就学前教育の費用対効果が非常に高いことに触れ、「教育のシナジー効果が最も高いのは就学前から小学校の低学年にかけてである」と説明した。また教員の質の重要性についても触れ、「少子化が進むなかで教員の量を増やすのではなく質を高める政策を取るべき」と述べた。

■ 教育データの公開と第三者評価が必要

最後に、日本で教育政策の効果に関する科学的研究が進まない理由として、教育に関するデータが公開されていないことや第三者による外部評価が定着していないことを挙げ、「教育行政にかかわるPDCAのチェックの部分は、行政ではなく、マスコミや外部研究者が行うべきである」と指摘した。

【教育・スポーツ推進本部】

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