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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年3月17日 No.3262 医療の「見える化」に向けた取り組み聞く -社会保障委員会

経団連は2月25日、東京・大手町の経団連会館で社会保障委員会(鈴木茂晴委員長、鈴木伸弥委員長、櫻田謙悟委員長)を開催し、内閣府から政府の財政健全化と社会保障改革の取り組みの全体像について(前号既報)、また産業医科大学の松田晋哉医学部教授から、医療の「見える化」に関する取り組みについて、それぞれ説明を聞くとともに意見交換を行った。松田教授の説明の概要は次のとおり。

■ 「見える化」の必要性

わが国では、少子高齢化の進展により、社会保障制度の持続可能性に対する懸念が大きくなっており、制度改革が急務となっている。

求められる改革をブレークダウンすると、(1)保険料収入の増加(2)サービス供給量の適正化(3)効率化――の3つに分けることができる。ただ、いずれの改革を進めるうえでも、国民の納得性を担保するために、医療の「見える化」が不可欠であり、これまで蓄積したデータの活用やさらなる分析ツールの開発が求められる。

■ 保険料収入の増加策

社会保険料は給与に保険料率をかけて算定されるものであることから、保険料収入の増加に向けては、賃金の引き上げができるよう、労働生産性を向上させていくことが重要である。

産業医科大学では、労働生産性を調査するツールとして、産業医大労働障害調査票(WFun)を開発した。WFunを用いれば、休職・退職等の高リスク者の特定が可能となるため、特定された高リスク者に対して早期・集中的な介入を行うことで、リスクの顕在化を防ぐことができる。産業医科大学では、WFunも含め、産業保健にかかるビッグデータのインフラ基盤を構築しているところである。

■ サービス供給量の適正化策

供給量を適正化する手段の1つに、保険の給付範囲の見直しがある。そのなかでも、代替政策と呼ばれる、サービスの質を落とすことなく、より費用効果的なサービスに利用者を誘導するプログラムが欧州を中心に進められている。

日本でも、長期療養型医療施設から福祉施設、そして在宅ケアへと移行を促していこうとしているが、在宅ケアを進めるためには、医師による訪問診療の体制整備が不可欠になってくる。そこで、全国のレセプトデータを用いて、訪問診療の普及度合いについて分析したところ、訪問診療と訪問看護指示には、強い正の相関があることがわかった。入院医療の延長として在宅ケアを位置づける以上、訪問診療を支える存在として、訪問看護の体制整備を進めるとともに、看護診断・看護計画的なケアマネジメントを普及させ、積極的に介護予防を行っていくべきである。

■ 効率化策

医療全体の効率性を向上させるためには、医療の機能分化と連携が不可欠である。昨年6月、「医療・介護情報の分析・検討ワーキンググループ」において公表した2025年の医療機能別必要病床数推計では、機能分化を進めることで、病床数を減らすことができることを明らかにした。

ただし、個別の疾患ごとの医療需要をみてみると、高齢化の進展を背景に、誤嚥性肺炎や大腿骨骨折による入院の増加が想定される。したがって、こうした高齢者の虚弱による疾患を予防するべく、介護予防を戦略的に見直していくことが求められる。

【経済政策本部】

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