1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2016年3月31日 No.3264
  5. 第16回「経団連 Power UP カレッジ」

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年3月31日 No.3264 第16回「経団連 Power UP カレッジ」 -「果敢な勇気と突破力」/味の素の伊藤会長が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は2月25日、東京・大手町の経団連会館で第16回「経団連 Power UP カレッジ」を開催し、味の素の伊藤雅俊会長から講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 見方を変える

製造業はモノをつくるだけではなく、サービス業ととらえることができる。例えば“ほんだし®”という商品を利用していただくためには、新しいレシピや上手な使い方のような物ではない無形の知恵を示すことの方が重要である。また鰹節を削る行為を代替するサービスとしても付加価値がある。どの産業でも、仕事とは人の行為を代替する、より良いサービスを提供し続けることが必要であり、人間とは、より良いものを追求していく生き物なのである。

生き物は栄養を取らなければ生きていけない。人の体は3カ月サイクルで細胞が生まれ変わり、細胞をつくり直すためには食べ続けなければならない。いわば人体は食べ物を介しての細胞培養器と見立てることができる。当社ではこのような着想から再生医療に用いる培養細胞液という新たな医薬品分野を生み出した。食を探求することは非常に奥が深い。

人間は進化の過程で、調理によって食物の栄養価や保存性を高め、持ち運び、分配ができるようになった。調理によって栄養の効率的摂取が可能となり、脳の大型化による高度な技術習得、余剰時間の増加が分業の発展につながった。調理は“人間を自然状態から引き上げる文化的革新”といえ、体の機能も社会も男女の役割も変えた。分業の前提が変わった現代で、その先に求められるサービスを考えること、例えば進化の先に「男性の授乳はあり得るか」など、いかに人と違う発想ができるかという「想像力」が大事である。

■ 本当に新しいことは70%の人に反対される

当社は、基本5味の1つ、うま味やコク味など食にかかわる専門領域を徹底的に深め、基盤となるアミノ酸技術を駆使し、新たな素材を発見し、商品を生み出してきた。日本食文化はもとより、アミノサイエンス技術を基点とするバイオ医薬関連分野など、当社独自の素材・技術の価値を利用した、世界にない食品企業として日本から世界中に展開しようとしている。

新たなものを生み出すためには、多様な視点を持つことが必要であり、そのためには基盤となる専門性を持ち、周囲から「異常だ」といわれるようなことを徹底的にやることが大事なのである。会社で「勇気があるね」といわれたことがあるか、新しいものや今までと違うものを提起したことがあるか、ぜひ自問してほしい。新しいものを人間は怖がるようにできているし、人は経験したものしか信用しない。本当に新しいことは70%の人に反対され、反対の裏には理解不足と情報ギャップがある。反対を突破していくには、情報で対抗していく必要がある。

■ 「創造力を高める7箇条」

仕事をしていくうえでは、人と異なる見方や発想を変えることが重要である。そのための「創造力を高める7箇条」を挙げると、(1)志・熱望(2)知識・情報(3)論理的思考(4)共感・チーム(5)楽観(6)執着心(7)美しさ――とまとめることができる。新しいことをやり続け、より良いサービスを追求し、人に役立つ、他とは違う付加価値を生みだし、報酬を得ること。これが組織人の仕事の仕方である。

その際最も重要なのは、「強い志や熱望」であり、志があれば自然と「知識や情報」は集まってくる。新しいことのほとんどが、既存の知識や情報を組み合わせた結果として生まれてくるが、熱望がなければ必要な情報は集まらない。そして「論理的思考」は、アイデアを成功させる確度を上げると同時に、他者の「共感」を呼び、「チーム」をつくるために必要となる。ただし、個人の志が野望となって強く出すぎると、他者の共感は得られず、相反する両者のコントロールも重要である。そして可能性を信じ「楽観的」に取り組むこと、できるまでやるという「執着心」を持つこと、最後に誰もが納得し理解できるシンプルさ、「美しさ」を求めていかなければならない。

■ 事業の「構造を変える」

“クノールカップスープ”は、発売後4年間、不振が続いた。売れ出したのは「朝ごはん、飲んだ?」というキャッチフレーズのもと、朝食に絞ってマーケティングを展開してからであり、新たな市場をつくり出すことができた(実は欧米で朝にスープを飲む習慣がある国は見当たらない)。また、冷凍食品では、低採算な事業を製品ポートフォリオを大胆に変え、また業界での高品質のシンボルをつくる「餃子の永久改良開発プロジェクト」をつくり、初期投資で大幅に品質を上げ、さらに「毎年改良」に取り組んだ結果、巨大な単品市場をつくることができた。そして、上質で便利なシンボル商品をつくることで、冷凍食品の品質の概念を変え、お客さまに喜ばれ、その結果利益を上げる事業構造につくり変えたのである。

仕事とは「構造」をつくることであり、新たなプランをつくる場合には、売上目標ではなく、いつまでにどのような「構造」をつくるか、を考えることが重要である。当社の今も、ここ5~6年で事業の構造を変えてきた結果である。経営とは非常にクリエイティブなものである。

【経団連事業サービス】

「経団連 Power UP カレッジ」講演録はこちら

「2016年3月31日 No.3264」一覧はこちら