経団連は3月25日、東京・大手町の経団連会館で情報通信委員会デジタル社会推進部会(五十嵐芳彦部会長)を開催し、世界初のブロックチェーン専門学術誌であるLEDGER誌エディターの松尾真一郎氏(米国シリコンバレー在住、4月から東京大学海外研究員を兼務)からブロックチェーンの現状とインパクトについて聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ 将来の社会基盤になり得るブロックチェーン
ブロックチェーンは新しい技術ではなく、従来からある技術を巧妙に組み合わせることで、公開検証可能な分散データベースを実現している。ブロックチェーン上のデータを参加者の誰もが検証できるようにすることでデータの信頼性が確保され、結果として特定の機関が正当性を保証する必要がない。この非中央集権的な仕組みがブロックチェーンの最も革新的な点といえる。
金融分野では、Bitcoinのようなデジタル通貨への応用に加え、ブロックチェーンを株券代わりに利用することや、国際送金を行うことが期待できる。金融以外の分野では、ブロックチェーンを利用して契約状況や権利関係などを証明することで、多種多様な新サービスが生まれる可能性がある。また、ブロックチェーンの公開検証性により監査も容易になる。ブロックチェーンのポテンシャルを引き出す新たな活用方法をこれから研究する段階にある。
■ 技術的には未成熟
ブロックチェーンが登場してから7年弱でスタートアップ企業に数千億円の資金が流入しており、これはインターネット登場後7年間の投資額を上回る。しかし、ブロックチェーンは社会基盤となるにはまだまだ未成熟で、技術的な「確からしさ」が確認される前にビジネスが始まっていることに大きな懸念を抱いている。
セキュリティの観点からは、二重使用やマネー・ロンダリングなどの不正使用の防止、プライバシー保護の観点からは、取引をする者が特定されないことを検証する必要がある。また、ブロックチェーンの開発者コミュニティにセキュリティや暗号技術の専門家が少ないことも課題である。
これからはアカデミアが参画し、安全性の数学的な証明や検証等を進めることが重要となる。そこで4月から学術研究のための中立で信頼できるブロックチェーンネットワークを構築するプロジェクトを開始する。大学を中心とした研究を推進し、ブロックチェーンの利用に伴うリスクと安全に利用するための前提条件を整理していきたい。
■ ブロックチェーンが有効となるユースケースをわれわれはまだ知らない
インターネットの場合、誰もが情報を送受信できる特性を活かした新たなエコシステムの試作が繰り返された結果、社会基盤として確立し、SNSやシェアリングエコノミーなどの当初は想定しないエコシステムが生まれた。一方、ブロックチェーンには、権利や状態に関する公開情報が改ざんできないかたちで集積する特性があり、集積した情報を組み合わせ分析することで、新たなエコシステムを誰でもつくることができる。いま米国では、そのアイデアを競っている段階にある。
日本は、マイナンバー制度において公的個人認証機能を国家規模で運用している。暗号技術の公的運用における先進国という強みを活かし米国企業の先を行くエコシステムの提案が期待される。
【産業技術本部】