Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年4月14日 No.3266  シリーズ「地域の活性化策を考える」 -地域の価値向上に向けたインフラのリデザイン/辻琢也・一橋大学副学長・大学院法学研究科教授/21世紀政策研究所

シリーズ「地域の活性化策を考える」の第7回は、辻琢也・一橋大学副学長・大学院法学研究科教授「地域の価値向上に向けたインフラのリデザイン」。同氏は、プロジェクト「超高齢・人口減少社会における公共施設(ハコモノ・インフラ)の維持・更新」の研究主幹を務め、報告書「超高齢・人口減少社会のインフラをデザインする」では、超高齢化・人口減少社会においては、高度成長・安定成長期に整備されたインフラの更新にあたり、長期にわたって計画的に縮小・再編・機能更新していくことが求められると主張している。

◆ 超高齢・人口減少社会の到来

わが国の総人口は、2008年の1億2810万人をピークに人口減少の局面に入りました。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」によれば、今後は急速なペースで人口が減り続け、2050年には9708万人(24.2%減)と1億人を割り込みます。しかも、経済を支える生産年齢人口(15~64歳)が減って高齢者(65歳以上)が増えるかたちで人口の低密度化が進行していきます。さらに若年層の大都市への移動がこうした動向に拍車をかけます。この結果、地方に限らず、ごく一部の大都市を除いて、人口の低密度化は深刻になります。

◆ 資産デフレを起こさないまちづくり

こうした事態に対して、基本的には、日本全体で20~30年かけて出生率を引き上げる努力をすべきです。いわば、我慢の20年、30年です。

次に、民間企業が安心して投資できるように、資産デフレを起こさないまちづくりを考えるべきです。それは、第3次産業が発展するまちづくりでもあります。それぞれの自治体にある、ある程度人口密度を維持できる地区に、公共が民間後追いで、また、ときとして呼び水として投資の先鞭をつけることが重要だと思います。

◆ 内外の事例

人口の低密度化に伴ってインフラの統合・縮小・撤去や、場合によっては郊外から中心部へ人に移ってもらうことが必要になりますが、なかなか一筋縄ではいきません。そうしたなか、地域の価値の向上、魅力の向上を前面に押し出して成功している事例をいくつか紹介します。

私は14年に、21世紀政策研究所の調査で、旧東ドイツのザクセン・アンハルト州のシュテンダール市、デッサウ・ロスラウ市、マグデブルグ市を訪れました。いずれも、統一ドイツ誕生により、旧西ドイツや海外への移住によって人口が急減した地域です。そこで、インフラ・リデザインの次のような事例を目の当たりにしました。

○ 過大となった住宅の減築(解体や撤去など)

減築にあたっては、まちづくりと住宅政策、交通政策、学校政策等を一体化した総合再生計画を策定し、そのなかで実施している。減築エリアでは、6階建てから4階建てにし、間取りのバリエーションを増やしたり、バルコニーやエレベーターを設置したりして建物の価値を向上させている。撤去住戸の跡地は、緑地として整備し、さらには病院、学校、プールをつくるなど、人口流出を止めるために、魅力的なまちづくりを目指している。その結果、郊外に移った住民が戻り、目抜き通りはにぎわいを取り戻していた。

○ 広域でのネットワークの再編

バス路線の運行方法を大幅に変更し、3大都市間のみを定期運行にし、それ以外はオン・デマンドの「電話バス」やタクシーを併用している。バスの到着時刻に合わせて、学校ごとに始業時間を変えている。

日本国内では、例えば、長崎市の野母崎地区は漁業が盛んで融和が難しい地域といわれてきましたが、4つの小学校を1つに統合するにあたって、長崎市の公立学校にはなかった小中一貫校にすることにより住民の理解を得ることができました。

【21世紀政策研究所】

シリーズ「地域の活性化策を考える」はこちら