21世紀政策研究所(三浦惺所長)の国際租税研究会(以下、研究会)ではかねてより青山慶二研究主幹(早稲田大学大学院会計研究科教授)を中心に、OECD/G20のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting/税源浸食と利益移転)プロジェクトへの対応を研究しており、経団連の意見発信にあたり専門的見地から助言を行ってきた。その一環として同研究所と経団連は5月12日、東京・大手町の経団連会館で会員企業、有識者ら160名の参加を得て、第118回シンポジウム「BEPSプロジェクトの総括と今後の国際租税の展望」を開催した。
■ 報告
シンポジウムでは、まず青山研究主幹が、OECDの諮問機関であるBIAC(経済産業諮問委員会)と研究会・経団連が密接に連携して活動してきたことを報告。そのなかで、移転価格文書化(行動計画13)の国別報告事項について、最終親会社の所在地国の当局に提出し、租税条約に基づいて各国に情報共有される方式が採用されるなど、一定の事項についてわが国産業界の意見が反映されるという成果があったことを紹介した。また、今後の課題は、最終報告書を踏まえた各国の実施内容のモニタリングや積み残された問題の検討であると述べた。
■ パネルディスカッション
続いて、研究会の研究委員がパネリストとなってパネルディスカッションが行われた。
高嶋健一・KPMG税理士法人パートナーは、CFC税制(行動計画3)について、ベストプラクティスを示す事例集のような性格であると指摘。日本の現行制度は、最終報告書の勧告内容をほぼ備えているため、今後は過剰合算が生じている複雑な部分を整理する必要があると述べた。
原口太一・EY税理士法人エグゼクティブ・ディレクターは、利子控除制限(行動計画4)について、わが国にも存在する過大支払利子税制と同様の制度であるが、今後は対国内、対第三者の支払利子も制限対象となるなど損金算入の範囲が狭まることが予想されると注意喚起を行った。
岡田至康・PwC税理士法人顧問は、移転価格税制(行動計画8~10)全体の概要を説明し、最終報告書では独立企業原則を「移転価格と価値創造の一致」との概念のもとで再構築して発展させたかたちになったと述べた。納税者としては主体的に同原則を検討するとともに、海外子会社を十分に管理し、二重課税については当局に対して積極的に働きかけることが重要であることを強調した。
山川博樹・デロイトトーマツ税理士法人パートナーは、移転価格税制のうち利益分割法について、適用がなじむ事例もあり得るものの、企業と当局の間で、また各国の当局ごとに解釈が異なる可能性もあり、事前確認や相互協議も活用していく必要があると述べた。
最後に、移転価格文書化の実務や欧州委員会が提案している国別報告事項の一般公開等について、パネリストが会場からの質問に回答した。
21世紀政策研究所は、積み残されたBEPS問題や各国の国内法制を含む国際租税の問題について引き続き検討を進めることとしている。
【21世紀政策研究所】