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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年8月4日 No.3281 第113回労働法フォーラム -報告Ⅱ「企業組織の変動にかかる人事労務上の法的留意点」/弁護士・田中勇気氏

田中勇気弁護士

経団連および経団連事業サービスは7月14、15の両日、経営法曹会議の協賛により、第113回経団連労働法フォーラムを都内で開催した(7月21日28日号既報)。弁護士報告Ⅱおよび質疑応答・討論の模様は次のとおり。

■ ストックディールとアセットディール

近年、企業のM&Aが活発化している。M&Aは、株式譲渡など対象会社の株式を目的とするストックディールと、事業譲渡や会社分割など対象会社の資産・負債等を目的とするアセットディールの2つに分類される。アセットディールは組織変動が不可避的で、同時に労働契約の承継など人事労務問題も発生することから留意が必要である。

アセットディールではトラブルが多いため、多くの裁判例が蓄積されている。それらの蓄積等を踏まえ、厚生労働省では、事業譲渡や会社分割に関する指針等を制定・改正、2016年9月から施行・適用されることとなっている。

■ 事業譲渡指針の制定

事業譲渡の場合、労働契約の承継は、労働者の個別同意に加え、譲渡会社と譲受会社を含めた三面合意が必要となる。新たに制定される事業譲渡指針(法的根拠のない指針)では、この個別同意の手続きに加え、新たに過半数組合等との協議の方法について詳しく記載されている。実務上のポイントとしては、個別同意をしっかりと取りつけるため、事業譲渡契約において、三面合意が必須であることと承継の範囲を明確化しておくことが望ましい。

仮に予定どおりに承継が実現しない場合、整理解雇や希望退職の募集、配置転換等が譲渡会社に求められる。また、労働条件の変更がある場合、譲受会社は実務上可能な変更範囲を見極め、譲渡会社は一定期間の差額補填措置等、個別同意へのサポートが必要となる。

■ 転籍合意の際に求められる手続き

次に、会社分割では、労働契約承継法にのっとり、原則的な取り扱いに沿っている場合、対象労働者の個別同意は不要となる。承継手続きは原則として、労働者の過半数を代表する労働組合と包括的な内容を協議(7条措置)した後、労働者との個別協議(5条協議)を行い、最後に労働者・労働組合への通知を行う。承継の際、原則労働条件は維持されるが、労働条件の変更を前提とした転籍合意や労働協約・就業規則による労働条件の変更など例外もある。

今回改正される指針では、転籍同意であっても5条協議などの法の手続きは省略できないことなどが新たに定められている。分割前後で労働条件を変更する場合、すべてを一度に変えるのではなく、労働時間など比較的容易なものから変更していくことが望ましい。

合併については、労働者の個別同意ならびに法律上の手続きは不要となる。ただし、余剰人員リスクのコントロールが難しく、労働組合や労働協約の並存問題など、一定の留意が必要である。場合によっては、共同株式移転という合併以外の選択肢を検討することも必要である。

■ 質疑応答・討論

午後の質疑応答・討論では、組織変動に関する質問に加え、1日目の長澤運輸事件に関する質問も多数出された。

社内の黒字事業を再編し他社へ委託する場合の適切なM&Aの類型に関する質問に対しては、事業規模により会社分割もしくは事業譲渡を判断することが望ましいが、一般的には会社分割を選択するケースが多いとの解説があった。また、それら事業に受け入れられない労働者への整理解雇の有効性については、整理解雇の4要素を満たすことが重要であり、整理解雇だけでなく、出向スキームを活用することも選択肢の1つである旨の見解が示された。

また、労働契約法20条違反とされた長澤運輸事件は、(1)業務内容(2)当該職務の内容および配置の変更の範囲(3)その他の事情――の3つの考慮要素のうち、(3)がまったく考慮されていない点が大いに問題であるとの指摘が多くの弁護士からあった。

【労働法制本部】

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