Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年9月8日 No.3284  2016年アメリカ大統領選挙をめぐって<後編> -2016年選挙の特異性/21世紀政策研究所研究主幹・久保文明

6月23日から24日にかけて21世紀政策研究所の日韓政策対話として韓国を訪問し、東西大学および梨花女子大学においてアメリカ大統領選挙について講演した。7月14日号に引き続き、講演の概要と韓国での反応について、共和党・民主党大会の結果などその後の状況変化を踏まえて紹介する。

■ 候補者の強みと弱み

クリントン、トランプ両候補それぞれの強み・弱みを整理してみます。

クリントン氏の強みは、豊富な政治経験(上院議員、国務長官として)、政策の理解力、政治資金力、初の女性大統領を目指すという歴史性が挙げられます。一方弱みは、既成政治家・エスタブリッシュメントのイメージ(変化をアピールしにくい)、ウォールストリートに近いイメージ、高い非好感度、スキャンダル(Eメール問題、夫のクリントン財団による政治献金問題)でしょう。

トランプ氏の強みは、既成政治に挑戦して変化を実現するイメージと、白人労働者層の心をつかむ直言です。弱みは、失言・暴言・人種差別的発言、政策の理解が弱いこと、高い非好感度(2人とも非好感度が高いのが今回の特徴)、スキャンダル(トランプ大学訴訟、確定申告の非公開など)となります。

■ 注目点

今後の展開で特に注目されるのは、トランプ氏が予備選挙での戦い方を本選挙においてどの程度変えられるかという点です。予備選挙では素人の勘に頼る戦略が当たりましたが、本選挙ではそうはいかないでしょう。

共和党主流派の支持を固めるために、次の点が目を引きます。

  • 副大統領候補には政治経験をもつマイク・ペンス氏(インディアナ州知事)が指名された。
  • 公表された連邦最高裁判所判事候補のリストは保守派の判事ばかりであり、共和党主流派の間では高く評価されている。

■ 支持基盤入れ替わりの可能性

今回の選挙では、二大政党の従来の支持基盤が一部変動する可能性があります。今回の候補者確定により、共和党高学歴層や外交専門家らは棄権するか民主党に投票するでしょう。アーミテージ元国務副長官、スコウクロフト元大統領国家安全保障補佐官、ポールソン元財務長官らは、クリントン氏に投票すると公言しています。あるいは評論家のジョージ・ウィルは共和党離党を宣言しました。

他方でトランプ氏は、特にオハイオ、ペンシルベニアなどの州で、民主党の支持基盤である白人労働者層に食い込む可能性を秘めています。

投票日までまだかなりの時間があり、しかも、今回はさまざまな異例な要素が入り込んでいます。過去のパターンやこれまでの常識にとらわれずにみていく必要があると思います。特に、アメリカの白人労働者層が抱えている困難と政治に対する怒りといったものを決して過小評価してはならないでしょう。

■ 韓国での反応・質疑応答

講演後に韓国の聴衆からは多数の質問を受けました。やはりトランプ政権になった場合の対北朝鮮政策の方向性に強い関心があるようでした。トランプ氏は「北朝鮮指導者がアメリカに来たらハンバーガーを食べながら面会する」と述べており、韓国防衛に対しては、日本についてと同様に、もっとアメリカにお金を支払うべきであるという意見を表明しています。また一時は核武装も許容すると述べるなど、現状を詳しく把握しているわけではないように感じられます。

会場からは「米軍撤退は韓国にとって逆に好機ではないか」との意見も寄せられ、これは日本でも出される意見かと感じました。「韓米同盟について根本に立ち返ってその意義を考えるのには確かによい機会かもしれないが、現実にはかなり大きな危険を伴うように思われる」と回答しました。

全体として、韓国でも今年のアメリカの大統領選挙の動向に強い関心を抱いている様子が強く感じられました。

7月後半に共和党・民主党がそれぞれ全国党大会を開催しました。共和党は6%、民主党は7%、自分の党の候補者の支持率を上昇させることに成功しました。ただし、そのころからトランプ氏に大きな失言が続き、9月初めの時点ではクリントン氏が世論調査の平均で6%程度リードしています。今後、直接対決する討論会でトランプ氏が圧勝しないと、逆転は容易でないと思われます。

【21世紀政策研究所】