6月1日、トランプ米大統領はパリ協定離脱の意向を正式に表明した。
そこで21世紀政策研究所の有馬純研究主幹(東京大学教授)に、米国のパリ協定離脱による国際的取り組みへの影響、日本の対応等を今号と次号の2回に分けて解説いただいた。
■ トランプ大統領のパリ協定離脱演説
トランプ大統領のパリ協定離脱演説の要旨は次のとおりである。
米国はパリ協定から離脱する。再交渉を行い、フェアなディールができればパリ協定かまったく新しい枠組みに再加入する
パリ協定は米国の産業、経済、雇用に多大な悪影響を与え、米国の雇用や国富を他国に移転させる
他国が米国のパリ協定残留を期待するのは米国を経済的に不利にできるからであり、米国にパリ協定残留を求める国々は貿易、防衛で米国に多大なコストをかけている
パリ協定で米国にさまざまな制約を加える一方、最大の排出国である中国は今後13年間排出量を拡大することが許され、インドは数十億ドルの資金援助を目標達成の条件としており、アンフェアである
緑の気候基金は米国に今後数百億ドルの負担を強いる
パリ協定離脱は米国の主権であり、外国から米国経済についてとやかく言われるべきではない。自分を選んだのはピッツバーグ等の米国市民であり、パリの市民ではない。パリよりもオハイオ、デトロイト、ピッツバーグ等を優先すべき時である
トランプ大統領の「米国第一主義」が前面に出た演説であるが、2000年ごろから温暖化交渉に関与してきた筆者としては、大変残念な思いである。パリ協定はわが国が一貫して追求してきた「すべての主要国が参加する公平で実効ある枠組み」に成り得るものであり、米国は中国と並んで欠くことのできない主要プレーヤーである。長く難しい交渉を経てようやく出来上がったパリ協定から世界第2位の排出国である米国が離脱してしまうことは、温室効果ガス削減に向けた国際的な取り組みにさまざまな意味でネガティブな影響を及ぼすことになろう。
■ パリ協定離脱派の論理
5月末のG7サミットにおいて他の6カ国がパリ協定残留を真摯に働きかけ、国内においても多くの大企業が残留を求めるレターを発出したにもかかわらず、トランプ大統領が離脱を決めた背景は何か。バノン上級補佐官、プルイット環境保護庁長官をはじめとする離脱派の論理は「パリ協定キャンセルとの選挙公約を守る」「米国の負担が中国等に比して重い」ということに加え、「パリ協定のもとでは目標の下方修正は認められない。現行目標を維持した場合、クリーンパワープランの見直し・撤回等、トランプ政権が進めている国内対策に対する訴訟リスクを強める」というものであった。
しかし、中国、インドに比してオバマ政権の目標が過大であり、米国経済への影響が懸念されるのであれば、パリ協定にとどまりながら目標を見直せばよい話である。「パリ協定のもとで目標を下方修正できない」「パリ協定を根拠に特定の国内対策の実施が義務づけられる」という議論はパリ協定の正しい解釈ではない。
米国務省で一貫して交渉に関与してきたビニアーズ元法律顧問は「パリ協定は下方修正を含め、各国の目標見直しを禁ずるものではない。またパリ協定は自己執行力のある(self-executing)ものではないので、各国の国内対策を義務づけるものではない」と明言している。
◇◇◇
次号では、「国際的取り組みへの影響」「日本の対応」について解説する。
【21世紀政策研究所】