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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年6月29日 No.3321 「環境エネルギー政策の現状と課題」 -21世紀政策研究所・中国経済連合会が広島で講演会

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は6月16日、中国経済連合会(苅田知英会長)との共催により、広島市内で講演会「環境エネルギー政策の現状と課題」を開催した。冒頭、あいさつした竹下道夫・中国経済連合会エネルギー環境委員長は、エネルギー・環境政策をめぐり国内外でさまざまな動きがあり、製造業の多い中国地方の産業界としては、その動向を注視し、最新の情勢と課題について理解しておく必要があると述べた。続いて、有馬純・21世紀政策研究所研究主幹(東京大学教授)と服部徹・電力中央研究所社会経済研究所副研究参事の両氏がそれぞれ講演した。講演の概要は次のとおり。

■ パリ協定発効後の内外情勢とわが国の課題(有馬研究主幹)

昨年11月に発効したパリ協定は「すべての主要国が参加する公平な枠組み」という前提であったが、トランプ政権の離脱表明によって大きく方向性が変わってくる。米国不在のルール交渉では途上国の発言力が増すおそれがあり、特にEUとの連携を強化している中国は、もともと容易な目標を出しており、「パリ協定へのコミット」と「責任ある大国」を演出しようとする。国際的に中国の立場が強くなることは、日本にとっては地政学的に問題があるだろう。トランプ政権のパリ協定離脱通告までの今後2年半、粘り強く米国の復帰を促すと同時に、パリ協定の外で長期の温室効果ガス削減につながる革新的技術開発等で米国との二国間協力を模索すべきである。

一方、国内では2018年にかけて政府の長期低炭素発展戦略をめぐる議論が本格化し、カーボンプライシングの議論が活発化するだろう。日本の産業活動に影響を与える産業用電力、産業用天然ガスの炭素1トン当たりコストは、国際的にも高水準である。高額のエネルギーコストに直面し、エネルギー税や自主行動計画を通じて、すでに明示的・暗示的なカーボンプライシングを負担している日本の産業界に、さらに炭素税、排出量取引を賦課することは、日本の国際競争力に悪影響を及ぼす。重要なのはパリ協定の数値目標そのものよりも、長期的な排出削減を可能にする原子力発電所リプレース・新増設の方針の明確化とイノベーションの促進である。

■ 電力システム改革の展望~今後の制度設計を読み解く(服部氏)

電力システム改革は、2016年4月から第2段階である電力小売全面自由化の局面に移っている。電力システム改革貫徹のための政策小委員会での議論では、連系線利用ルールの見直しやベースロード電源、容量メカニズム、非化石価値等の市場の整備が検討され、エネルギー政策の目標である「3E+S」(安定供給・経済効率性・環境への適合+安全性)の実現を目指しつつ、市場メカニズムの活用による課題の解決を探るとしている。

市場メカニズムが導入された場合、メリットオーダー効果によって再生可能エネルギーが優先的に使用されると、火力電源が収益悪化により市場から退出する。その場合、自然変動電源である再生可能エネルギーの発電量が低下した時のバックアップを失うことになる。

エネルギーミックスの実現に必要な電源の投資には、長期にわたってリスクを軽減するような、市場メカニズムを補完する仕組みが必要かもしれない。英国で、新規の原子力発電を含む低炭素電源に、差額契約による固定価格買取制度を導入して35年間にわたって収入の安定化を図ることで資本調達コストを下げ、新規投資を促そうとしている点は注目される。

【21世紀政策研究所】

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