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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月3日 No.3326 第115回経団連労働法フォーラム -【報告Ⅱ】「過重労働防止に向けた環境整備~労働時間管理を中心に」
/弁護士 柊木野一紀氏(石嵜・山中総合法律事務所)

経団連および経団連事業サービスは7月13、14の両日、経営法曹会議の協賛により「第115回経団連労働法フォーラム」を東京・大手町の経団連会館で開催した(7月20日号27日号既報)。弁護士報告Ⅱおよび質疑応答・討論の模様は次のとおり。

■ 過重労働防止の重要性

過重労働を端的にいうと「過労死等を生じさせるおそれのある働き方」と表現できる。具体的には、脳・心臓疾患による死亡および精神障害を原因とする自殺等を引き起こす働き方のことである。

通常、脳・心臓疾患は、血管病変等が増悪するといった自然経過をたどり発症する。しかし、業務による明らかな加重負荷が加わることにより、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、発症したことが認められる場合、業務に起因すると判断される。また、精神疾患に関しては、業務における強い心理的負荷が認められることにより、業務起因性があるとされる。

「働き方改革」において、長時間労働是正について議論されるなか、2016年10月に、ある会社の自殺案件が大きく報道された。この案件が大きなインパクトを持っていたために議論が加速し、17年3月に「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」に至った。

■ 過重労働防止のために必要なことは何か

政府は16年12月に「過労死等ゼロ」緊急対策を公表した。(1)違法な長時間労働対策(2)メンタルヘルス・パワーハラスメント防止対策の取り組みの強化(3)社会全体で過労死等ゼロを目指す取り組みの強化――の3つを柱としている。

企業は、長時間労働やパワハラが従業員の生命や健康に直結することを再認識し、労働時間管理を徹底的に行い、ハラスメント対策を適切に講ずる必要がある。また、単なる割増賃金や過労死等による損害賠償等のリスクを超えて、経営リスクであることを銘記するべきである。そのうえで、経営トップ自身の決意およびその表明と、企業風土改革を行い、従業員教育などの社内体制を整備する必要がある。同時に、労働時間の管理体制、健康管理体制、パワハラ防止体制を構築すべきである。

■ 労働時間法制をめぐる動向と監督行政対応の留意点

過重労働対策の立法および行政の動向や、労働時間法制をめぐる動向に注目し、監督行政対応に留意しなければならない。例えば、「過労死等ゼロ」緊急対策で強化された、行政指導段階での企業名公表では、事業所1カ所でも是正勧告や労災認定事案が発生した場合には、速やかかつ自発的に、時間外労働の削減に取り組むことが実務上必要である。

■ 裁判例・労災認定事案を踏まえた労働時間管理のあり方

近時の裁判例の傾向は、使用者の関与に関する要素(明示的な指示、推奨、黙認等)と当該活動の職務性・業務性を考慮して判断している。労働基準法上の労働時間性の判断は、個別性が高く容易ではないため、(1)隠れ残業のリスクを防ぐために、従業員に労働時間に関する正しい知識を習得させるべく教育研修を実施し、従業員や管理職からの相談に対応する(2)ガイドラインの内容だけが独り歩きをしないよう、使用者の関与の程度と業務性・職務性を十分に検討する――の2点が大切である。また、労働時間は、客観的データに基づいて把握しているか、不正申告がないよう実態調査をしているか、なども重要な点である。

さらには、単なる時間把握だけでなく、従業員の健康確保も大切であり、勤務間インターバル制度やテレワークの導入検討、高度プロフェッショナル制度、兼業・副業などの推移も見守る必要がある。

■ 裁判例・労災認定事案を踏まえたパワーハラスメント対策

パワハラについても、セクシュアルハラスメントと同等の社内体制の整備を行うべきであり、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」も参考に、有事の適切な対応が必要である。具体的には、(1)迅速かつ正確な調査(2)被害が認定できた場合の被害回復措置、加害者に対する懲戒処分(3)被害が確認できない場合の措置――などである。

■ 裁判例・労災認定事案を踏まえたメンタルヘルス対策

ストレスチェックなど、メンタルヘルス対策も十分に実施するべきである。特に産業医の面接指導は、現行月100時間超の時間外・休日労働を行う従業員に義務づけているが、少なくとも月80時間超の労働者には受けさせるべきである。

<質疑応答・討論>

午後の質疑応答・討論では、行政指導の強化などを受け、労働時間法制をめぐる動向と監督行政への対応方法、労基法上の労働時間の考え方、企業実務上の質問が多数あった。

労働時間の考え方については、「過労死等ゼロ」緊急対策において「『使用者の明示または黙示の指示により自己啓発等の学習や研修受講をしていた時間』は労働時間として取り扱わなければならないこと等を明確化する」と記載があることから、実際のケースについて確認する質問が多く寄せられた。個別のケースが労働時間に当たるか否かは、使用者からの参加強制の程度と、業務との関連性を考慮するべきとの判断であったが、その判断については、弁護士により多様な見解が示された。

【労働法制本部】

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