Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月10日 No.3327  夏季フォーラム2017 -第2セッション「Society 5.0を支えるソーシャル・ビッグデータ」

喜連川教授

経団連は7月20、21の両日、長野県軽井沢町のホテルで夏季フォーラム2017を開催した。

第2セッションでは、喜連川優東京大学生産技術研究所教授・国立情報学研究所所長から「Society 5.0を支えるソーシャル・ビッグデータ」をテーマに講演を聞き、意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

■ Society 5.0の基盤となるビッグデータ

わが国の大きな方向感として、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く第5段階の社会、超スマート社会としてサイバーとフィジカルの世界が高度に融合し、経済的発展と社会的課題解決を目指すSociety 5.0の実現を見据えた際、データが大きな基盤になる。

近年、通信技術が大きく発展し、大容量の通信が可能となった。情報処理技術も進展し、今日ようやく膨大なデータそのものを収集解析可能となり、いかにデータを利活用していくかという段階に入っている。データの活用により社会的価値を創出することをまず第1に考えることの重要性についていくつかの事例を通して論じる。

■ ビッグデータによる社会的課題解決

(1)大規模災害への適用

近年、大規模な水害の発生をはじめ災害が頻発している。防災・減災の強化の観点からビッグデータは大いに活用できる。

例えば、水害に対して、わが国は海上も含めた全国各地に極めて多数の降水量等の観測のためのセンサーが設置され、リアルタイムにデータが収集されている。また、降水予想のシミュレーションモデルも保有している。これらフィジカルとサイバーの2つを統合したシステムを利用することにより、精緻に豪雨に対する対策が可能となる。これらのリアルタイムビッグデータを用い、ダムの事前放水を動的に実施することによりダムを降水のバッファとして最大限活用し、氾濫、洪水を防止、軽減できるよう現在、電力会社等と実証実験を進めている。

一方、アジア諸国も、わが国と同様の水害のリスクを抱えている。スリランカでは人口が集中する南西部が今年の5月末から6月にかけて大規模な水害に襲われた。同国はわが国の気象観測衛星ひまわりの観測範囲にもかろうじて入っており、また、わが国の努力でわずかではあるが降雨に関するセンサーも設置。これらにより日本から雨量や雲の動きを刻々と捕捉可能となり、氾濫地域の広がりも予測可能となった。このようなテクノロジーを提供したのはわが国だけで、他国は毛布や薬等の物資の支援にとどまっている。今後わが国は、このような科学技術外交による国際貢献を行っていくことが重要である。

(2)ヘルスケアへの適用

医療はビッグデータの活用が大いに期待される分野である。わが国は国民皆保険制度を導入しており、保険医療から日々生み出される電子レセプト情報が収集された世界最大級の医療ビッグデータを解析することにより、国民が受けているほぼすべての医療サービスを捕捉することが可能である。年齢ごとの医療費の割合、地域ごとの疾病の偏在、疾病に対する投薬動向の変遷など、医療の施策に対する数多くの示唆が得られる。

例えば、三重県の場合、四日市市などの北部の都市部では市内で医療や介護サービスが完結しているのに対して、南部の町村では近隣で必要なサービスが提供されておらず、患者はかなり遠方まで通院せざるを得ない実態が浮き彫りとなった。地域医療の質を維持しつつ負担増を抑制する施策立案への活用を進めている。さらにリアルタイムで活用することにより、効果的な疾病予防の導入につなげていける。

このようなビッグデータを保有しているのは限られた国家だけで、とりわけ発展途上国には医療に関するデータがほとんどない。データがないのであればつくればよい。

例えば、バングラデシュに医療支援を行ったが、ほとんど医療に関するデータが存在しなかった。そこで農村・都市それぞれで簡易な診療所を開き、健康診断を行った。廉価かつ有効なこの簡易な診療システムにならったヘルスケア・スタートアップが複数地点で自然に生まれたことは朗報といえる。累計で約1万5千人のデータを収集でき、同国では尿蛋白の数値がよくないことが判明した。その原因として、水質の問題が考えられることから、現在各地で水質の計測を行っている。

ヘルスケア分野の施策は国ごとにソリューションが異なるが、いずれにしてもデータの保有が雌雄を決するといえる。

■ データを通じた産学連携の強化

ビッグデータを活用し、共有することを通じ新たな社会的価値を生み出すことができる。それに付随して産業価値は容易に創出可能である。わが国は医療・防災以外にも数多くのデータを保有しており、これらのデータを1カ所に統合し、融合を可能とした瞬間に世界を圧倒的にリードできる。今後もデータを介し大学と企業が連携を図りながら、社会的価値の創造に取り組んでいきたい。

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講演後は、新たな方法論「Observable By Design」など次なる主戦場についての議論をはじめ、参加者とデータの所有権の帰属の問題、データの質の確保、IT人材の育成方法等について活発に意見交換が行われた。

【政治・社会本部】