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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月31日 No.3328 ワシントン・リポート<7> -NAFTA再交渉開始が意味するもの

経団連米国事務所から17番通りを8分ほど南に歩けばホワイトハウスに着く。最近の人事をみるまでもなく、このなかで何がどう動いているのかは知る由もないが、各主要シンクタンクにおける議論とホワイトハウスの言動との溝はなかなか埋まらない。

そうしたなかで8月16日、米国、カナダ、メキシコによるNAFTA再交渉がスタート、その動向は、いくつかの観点から注目されている。

第1に、トランプ大統領にとってNAFTA再交渉は選挙公約であり、それを実現したと評価されるだけの譲歩を引き出せなければ、離脱の可能性も消えていない。しかし、メキシコは来年に大統領選挙を控えていることから年内妥結を目指したいとしている。他方、カナダからは年内にこだわる声はない。何より、すでにNAFTAのもとで利益を上げ、雇用を生んでいる米国のビジネス関係者の声が現実味を帯びている。すでに担当閣僚の折衝が始まっており、現実的な線に落ち着くとの見方も出始めている。

第2に、NAFTA再交渉で米国の通商スタンスが明らかになると期待されている。ロス商務長官は、関税および非関税障壁などがどれだけ貿易赤字を生み出しているかは、貿易相手国とのより良いディールによってのみ明らかにできると述べている。その背景には、貿易障壁が米国の貿易インバランス(不均衡)の主たる要因との認識がある。商務省やUSTR(米通商代表部)は、米国の貿易赤字がどのくらい貿易協定によるものかをレビューしており、NAFTAはその中心的テーマとなっている。しかし、主要シンクタンクでは、関税および非関税障壁あるいは貿易協定を貿易赤字の主因とする議論はほとんど聞かれない。

第3に、TPPさらには日米FTAへの影響がある。USTRが公表したNAFTA再交渉の目的は一般的表現にとどまっており、TPPの交渉目的を反映している点も多い。トランプ政権は、当面TPP復帰はないとのスタンスだが、実務の現場はTPPで実現すべきことをNAFTAで実現しようとしているきらいもある。両者のギャップが再交渉の目的を明確にできない理由との見方もある。トランプ政権は日米FTAへの関心を維持しているとみえるが、NAFTA再交渉が第1プライオリティーとなっており、そのタイムラインが定まらないなかで、日米FTA交渉のタイムラインを想定することは難しい。

トランプ大統領のキャンペーン・レトリックの多くが、関係国の反応、さらには米国自体の企業、国民への影響が明らかになるにつれ現実味を失う可能性がある。その意味では、レトリックと政策が区分けし難かったキャンペーン中から政権初期の混乱は、やや落ち着きをみせている。レトリックに振り回されないよう、経済実態の認識を広める不断の努力が求められている。

(米国事務所長 山越厚志)

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