1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2017年11月9日 No.3338
  5. Brexitに向かう英国とEUの経済情勢

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月9日 No.3338 Brexitに向かう英国とEUの経済情勢 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(ニッセイ基礎研究所主席研究員) 伊藤さゆり

■ 明るさ増すユーロ圏、減速しつつも底堅さ保つ英国

ユーロ圏経済の明るさが増している。英国のEU離脱による悪影響が広がるとの懸念を覆し、景気回復の裾野は広がり、圏内格差の拡大にも歯止めがかかりつつある。2017年の実質GDP成長率は2.2%と、世界金融危機後、最も高い水準が見込まれる。18年も自立的な成長が続き、世界金融危機から開いた状態が続いたGDPギャップも解消しそうだ。景気の下支えに大きな役割を担ってきた欧州中央銀行(ECB)は、国債等の買い入れの段階的な縮小から停止に進むことができるだろう。

EU離脱に向かう英国は、減速しつつも底堅さを保っている。設備投資は国民投票が視野に入り始めた15年半ばから伸びが鈍り、ポンド安が招いたインフレで実質所得が減少、個人消費の伸びも抑えられている。しかし、製造業は、ポンド安と世界経済の好調が追い風となり足もとの輸出は堅調、EU離脱対応は協議の行方を見極めてからというムードが強い。金融機関は、単一市場の離脱による単一パスポートの失効に備えてEU圏内への拠点新設に動き出しているが、どの程度の人員を移すかなどの具体的決定は交渉の行方を見極めつつ下す方針であり、足もとの景気に悪影響を及ぼす段階には至っていない。

■ 離脱の道筋に影響を受ける18年以降の英国経済

英国財務省が取りまとめている内外の予測機関の経済見通しの平均は、10月時点で17年が前年比1.6%、18年が同1.4%となっており、「穏やかな減速」がコンセンサスだ。

だが、18年の英国経済が穏やかな減速にとどまるか否かは、19年3月に控える離脱がどのような道筋をとるかに左右されるだろう。

メイ政権の方針である単一市場からも関税同盟からも離脱する「ハードな離脱」を前提とすれば、景気減速を穏やかなものにとどめるためには、一定期間、現状と同じ条件での相互の市場アクセスを認める「移行期間」に入り、新たに締結する自由貿易協定(FTA)との間に空白期間が生じない「円滑な離脱」への道筋が、早いタイミングで明らかになることが必要だ。移行期間や新たなFTA締結の見通しがない「無秩序な離脱」の場合、経済活動の混乱や、資本、雇用の流出加速などで、景気には強い下押し圧力が加わりかねない。

10月20日の首脳会議で、EUは、離脱にかかわる協議の進展は「不十分」とし、移行期間や将来のFTAに関する協議入りの判断を12月14~15日の首脳会議に先送りした。協議前進のカギは離脱に伴う清算金にある。EUは、英国政府の方針の曖昧さに不満を募らせているが、英国には清算金の方針を明言できない事情がある。国民投票の離脱派のキャンペーンでは、もっぱらEUからの財源の奪還が強調された経緯があり、600億ユーロ(約8兆円)といわれるEU側の要求は受け入れ難い。与党・保守党内の強硬派は移行期間やFTAのためのEUへの譲歩を嫌う。6月総選挙で議席を過半数割れに減らしたメイ首相の求心力は低下し、調整力を発揮できていない。

EUにとっても英国の「円滑な離脱」が望ましいが、「無秩序な離脱」の悪影響は、経済規模の差を考えれば、英国よりもEUの方が小さい。英国に続く離脱を阻止するためにも、英国に譲歩する余地は限られる。

離脱の道筋は「ハードだが円滑な離脱」となる可能性が最も高いが、「無秩序な離脱」の可能性は排除できない。離脱に向かう英国経済の見通しは不確実性が高い。

【21世紀政策研究所】

「21世紀政策研究所 解説シリーズ」はこちら

「2017年11月9日 No.3338」一覧はこちら