Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年2月15日 No.3350  第121回経団連労使フォーラム -パネルディスカッション「活力ある職場を創る各社の取り組み」

経団連と経団連事業サービスは1月22、23の両日、東京・大手町の経団連会館で「第121回経団連労使フォーラム」を開催。春季労使交渉・協議や労使が抱える重要課題への対応策を探った。(1月25日号既報

「活力ある職場を創る各社の取り組み」をテーマに、法政大学キャリアデザイン学部准教授の松浦民恵氏進行のもと、味の素、NTTデータ、大和証券グループ本社の労務担当役員によるパネルディスカッションを実施。多様な人材が活躍できる職場づくりにおける働き方改革や健康経営の取り組みについて討議した。

◇ 導入「働き方改革の深化」(松浦氏)

日本企業では、男性正社員を時間や地域に制約がない同質的な集団と見なして、中核人材として活用する「同質性のマネジメント」が続けられてきた。これがうまく機能していた時代が長かったため、単に企業における雇用システムやマネジメントの問題でなく、社会基盤として深く根づいてしまったといえる。集団としての同質性が高いがゆえに意思決定が早く、同じ方向に一丸となって進んでいくにはよい仕組みだが、変革が必要な時代においてはこれを阻害するという弊害がある。

ダイバーシティ・マネジメントが必要になった背景としては、労働力人口の減少が一番に挙げられる。例えば、時間制約のある人たちに最大限活躍してもらわないと回らない時代になった。次に、縮小する国内市場で競争が激化し、グローバル市場でも海外企業との厳しい競争にさらされるなかで、変革マインドや多様な視点を持つ人材が必要な「先端的市場」でビジネスを展開せざるを得なくなってきた。

こうした労働市場の問題とビジネス上の理由の双方から、ダイバーシティ・マネジメントが待ったなしの状況となっている。働き方改革も健康経営も、ダイバーシティ・マネジメントを実現し、生産性の向上を図っていくための土台づくりのための具体的な取り組みとして位置づけられる。

◇ 味の素流「働き方改革」とそれを支える諸施策

当社は2017年度中期計画のなかで、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)の実現を大きな目標に掲げている。「地球持続性」「食資源」「健康な生活」における社会課題を、事業を通して解決するものである。さまざまな施策がこのASVをどう実現していくかにつながっている。

当社では以前から「ダイバーシティ&ワーク・ライフ・バランス」を経営戦略として取り組んできた。「Eat Well, Live Well」をつくり出すためにASVを実現する。その大切な基盤として多様性や新しい働き方がある。個人の成長が会社の成長に、会社の成長が個人の成長につながるとの考え方がベースにある。

働き方改革の目的は働きがいと生きがいの両立であり、結果的に生産性の向上やイノベーション、ASVに基づく新しい価値の創造につながる。「働きがいと生きがいの向上が皆さんの価値を高めることになる」とのメッセージを常に発信している。16年度からは全社プロジェクトとして進めており、目指す姿は「7時間労働で新たな価値を創造する会社」。それにより多様性を実現、多様性がイノベーションや新しい価値の創造につながるとの考え方に基づいている。

具体的には、16時以降会議をしない、ウェブ会議の活用など抜本的改革を急ピッチで進めている。所定労働時間は20分短縮し7時間15分とし、これを20年までに7時間にする計画である。同時に始業時間を前倒しし、終業時刻を16時30分にした。また働き方計画表をつくり、1年間の有休、残業を含めた労働時間の配分を職場で共有しながら計画的に働くことで意識を高める効果があった。

◇ NTTデータ「働き方改革に関する取り組み」

「多様な人財活躍」と「働き方変革」が企業の持続的成長につながるとして、ダイバーシティ&インクルージョンを推進している。当社は1988年にNTTから分離独立、公社時代から多くの女性が働いており、先進的な制度が整っていたが、2005年にワークスタイルイノベーション宣言を掲げ、働き方変革の取り組みをさらに加速させた。IT業界は元々長時間労働であり、ワークスタイルを魅力的にしていく必要があると考え実施した。

労働時間については18年末までに1890時間を目標とし、毎年KPIを設定し事業本部ごとに削減、業績評価の対象にした。これが功を奏しここ数年劇的に削減した。

生産性については単体で11%程度アップしている。非常に効果があったのが、全社シンクライアント化である。セキュリティー問題への対応がスタートだったが、この仕組みを使うことでどこでも自分の仮想デスクトップ画面が表示できる。ペーパーレス化も進み、印刷・保存・整理のための時間も削減、効果は大きかった。スマホでもメール、スケジュール管理、決裁などができ、業務効率がアップしている。テレワークの利用は77%、裁量労働制・フレックスの利用は5割以上となっている。

勤怠管理についてはPCログイン・アウト時刻で管理し、申告時間と乖離がある場合には理由を記入しないと承認されない。乖離理由の妥当性についても不正がないよう検証し、イリーガルな残業が行われないように管理している。

テレワーク・トライアルにより1日当たり業務50分、通勤100分の効率化があった。実験後、テレワークの利用意向が格段に上がっている。

◇ 大和証券グループの健康経営の取り組み

当社が社員の健康増進に力を入れ始めたのは2008年、特定検診(メタボ検診)が義務づけられた年で、これをきっかけに人事、健康保険組合、産業医で社員の健康状態の分析、情報交換を始めた。レセプトデータを集計したところ、高血圧、糖尿病、腎不全の生活習慣病が上位だった。また、本来治療が必要なのに自覚症状がないため放置するケースが多く、2割程度しか医療機関を受診していない事実も判明した。

これらを踏まえ、人事、健保組合、総合健康開発センターが連携して三位一体で対応することにした。定期健診で再受診が必要な社員にイエローペーパーを配り、病院に行って医師の意見を記入、会社への提出を義務づけた。これにより受診率は2割から8割に上昇した。

当社ではベテラン層の増加が見込まれており、その活躍支援施策として健康施策の重要性が高まっている。これを受け15年から健康経営推進体制を強化。社員の健康増進に積極的に取り組むためCHOを選任、健康経営推進会議を立ち上げた。グループ各社人事担当役員出席のもと、社員の健康状態の把握、各種健康施策の検討を行う。また健康白書を作成、健康診断やレセプトデータの分析によって、社員の健康状態の見える化を図った。

健康意識向上の取り組みKA・RA・DAいきいきプロジェクトでは、健康増進イベントに参加してポイントを取得、健康グッズ、開発途上国への寄付などに使える。がん対策の取り組みとして定期健診におけるABC検診、肝炎ウイルス検査の実施、複数年未受診者対応などを行った。また、仕事とがん治療の両立支援制度を導入、両立しやすい柔軟な勤務制度を取り入れた。こうした制度を通じて、より相談しやすい環境づくりを目指している。

社員の健康意識の高まりが、医療機関受診率・人間ドック受診率の大幅な向上に表れてきている。健康経営の取り組みは社員、会社にとってwin-winの関係にある。

【経団連事業サービス】