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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年2月15日 No.3350 ピュー研究所の調査で米国の政治、経済、社会の断面像をみる -ワシントン・リポート<29>

「『ピューの調査はMRI』との喩えは気に入ったのでほかでも使わせていただく」――。

2月7日、経団連米国事務所で「トランプ時代に米国人は自分たちを、そして世界をどうみているか」とのテーマで講演したピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス部長は、冒頭、私のあいさつの一部を取り上げこう述べた。

MRI(磁気共鳴画像診断)は、「強力な磁場と電波を利用して体内の状態を撮影する検査で、あらゆる角度から体のいろいろな部分の断面像を得ることができる」と説明される。

実際に、ピューのウェブサイトOpenNewWindowを訪ねてみると、「大方の米国民は、政府の高齢者、貧困者、ミドルクラスへの対応が不十分とみている」との調査結果がトップページを飾っていた。「対応が不十分」と答えた人の比率は、高齢者に対してで65%、貧困者62%、ミドルクラス61%、若者51%であるのに対し、富裕者に対してでは5%で、逆に「十分すぎる」が64%に上っている。

こうした調査が、「米国政治」「メディア&ニュース」「社会動向」「宗教」「インターネット&技術」「科学」「ヒスパニック」「グローバル」の分野において、ほぼ連日行われ発表されている。もちろん、世論調査にはサンプリングの限界や恣意性の問題もあり完全はないが、それゆえ多方面、さまざまな角度から断面図をみることが大事と考える。

ストークス氏は、米国で深まる党派対立の問題についてのさまざまな調査結果を紹介した。昨年8月調査で、共和、民主党員の友人関係について、共和党員では自党員について「多い」が57%、他党員については14%、民主党員では、それぞれ67%と9%で、友人関係にも党派色がはっきりみえる。共和党員が「民主党は国の福祉に脅威」と答える比率が2014年の37%から16年の時点ですでに45%に増え、民主党員では「共和党は脅威」と答える比率が31%から41%に増えている。

講演会参加者の関心は、通商問題へのスタンスの違いに集中した。「自由貿易協定は米国のためになる」と答える人の比率が、09年には共和党員で59%、民主党員で51%だったものが、11年にはそれぞれ46%、53%と逆転し、16年の年初に39%、59%、 年央には29%、61%で、17年に35%、66%とやや戻ったものの、共和党員の自由貿易離れ、民主党員の支持が明白になっている。共和党は企業ベースの自由貿易主義、民主党は組合ベースの保護主義といったかつてのイメージとは明らかに異なる。

これはなぜか。ストークス氏は、特に大統領選挙を通じて、高齢で貧しい共和党支持の白人たちがグローバリゼーションへの反発を強めてきたことを指摘する。これに対して、民主党支持の大学卒の若者は、グローバリゼーションの現実を受け入れ、むしろ重視しているとみられる。民主党のリベラル志向による組合員の民主党離れも影響しているかもしれない。

グローバリゼーションの荒波に飛び込み、それを活用してきた米国だが、国民の意識と制度がそれに追いついていないゆえの苦悩が表れている。

(米国事務所長 山越厚志)

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