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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月29日 No.3356 アメリカにおける不法移民問題 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(成蹊大学法学部教授) 西山隆行

■ 党派を横断する賛否

近年、世界的に移民問題が注目を集めている。アメリカで問題になっているのは主に不法移民問題である。

今日のアメリカには不法移民が約1100万人存在する。これ以上不法移民を増やすべきでないことについては一定の合意があるが、現在国内で居住している不法移民への対応については見解が分かれている。全員国外退去処分にすべきだという人がいる一方、実現可能性を考えて、不法移民の一部に滞在と労働の許可を与えるべきだと主張する人も存在する。

不法移民対策を複雑にしているのは、問題への賛否が党派を横断していることである。一般には、共和党が不法移民に批判的で、民主党は寛大な印象がある。だが、不法移民は安価な労働力でもあるため、共和党の支持基盤であるビジネス界は不法移民に寛大な立場を取る。逆に、労働組合は不法移民を好ましくない存在と考えるため、民主党にも不法移民に厳格な立場を取る人もいる。近年民主党が不法移民に寛大になっているのは、労働組合の影響力が低下する一方で、組織率向上のために移民の取り込みを模索しているためである。

このような状況で不法移民対策を実現するには、両党の政治家から協力を得て、呉越同舟的なかたちで法案をつくる必要がある。そのため、すでに国内に居住している不法移民のなかの一定数に滞在と労働を許可する一方で、以後の出入国管理を厳格化するという抱き合わせ策を取る必要がある。だが、議会では、このような立法は困難なため、近年では、大統領令で不法移民対策が行われるようになっている。

■ DACA

今日問題になっているのは、オバマ大統領が導入した「若年層向け強制送還延期プログラム」(DACA)である。子どもの時に親に連れられて不法入国し、現在アメリカに不法滞在している人々(「ドリーマー」と呼ばれる)が対象となっている。彼らは不法滞在中だが、子どもの時に連れてこられた彼らにその責任を問うのは妥当でないともいえる。DACAは2年ごとの更新制で、彼らに滞在許可と労働許可を与えるものである。

その目的のうち、滞在許可を与えることについては行政権の行使として容認される。だが、労働許可を与えるのは現存法規の運用の枠を超えるため、行政権の逸脱ではないかとの批判がトランプ支持者の間で存在した。そこで、トランプ大統領は昨年9月に、今年3月5日以後はDACAの更新を認めないとの立場を示した。これに対し、カリフォルニア州などがDACAの継続を求めて連邦裁判所に提訴し、今年1月、連邦地方裁判所はその主張を認めた。トランプ政権は裁判所の判断の破棄を求めているものの、国土安全保障省は裁判所の命令に従い、3月5日以後もDACAの申請を受け続けている。

なお、DACA停止決定後、トランプ大統領は同じ9月に、国境警備強化と引き換えにドリーマーの強制送還を猶予し、滞在と労働の許可を与える政策の法制化を目指すことで民主党指導部と合意した。この決定は、共和党指導部の頭越しに行われたものの、超党派的立法が行われる可能性が出たとして注目を集めた。だが、トランプ大統領は、現在では、民主党のせいでDACA代替法案が成立しないと発言するようになり、連邦議会もDACA代替法案成立に向けて積極的な行動をしていない。

二大政党の分極化と対立激化が鮮明となるなかで、DACA代替法案の前途は暗い。また、トランプ大統領は、「聖域都市」と呼ばれる不法移民対策を厳格に執行しない立場を示す都市と敵対する姿勢を明確にしている。議会共和党の保守派も、DACA代替法案の実現には消極的である。今後、連邦控訴裁判所や最高裁がDACA停止問題にどのような対応を取るかにもよるが、今年11月の中間選挙を前に、不法移民問題で新たな動きが生じるかに注目する必要がある。

(3月12日脱稿)

【21世紀政策研究所】

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