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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年4月26日 No.3360 「再生医療の現状、医療の未来」 -理化学研究所の高橋プロジェクトリーダーが説明/未来産業・技術委員会

経団連は3月14日、東京・大手町の経団連会館で未来産業・技術委員会(山西健一郎委員長、小野寺正委員長)を開催し、理化学研究所生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの髙橋政代プロジェクトリーダーから、「再生医療の現状、医療の未来」をテーマに説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 神戸アイセンターの開設

昨年12月に神戸アイセンターを開設した。再生医療の研究施設、眼科医療施設、リハビリ・社会復帰支援施設が一緒になった未来の医療の象徴である。障がい者も含むインクルーシブな世界に向けた流れのなかで、ビジネス的な観点からも成り立つ仕組みであると思っている。

医療のIT化、高度化がいわれている。眼科は最もやりやすいところであり、EUでは、Googleとアイセンターが一緒に取り組んでいる。これからは医療が病院に閉じず、一般家庭に入っていく。眼科の世界では、ロービジョンケアが大事になると考える。低視力や視覚障害のケアは、医療の範囲外と考えられているが、すべての個人と社会を包含した医療にならなければならない。眼科学会の試算では、視覚障害は医療費だけで年間3兆円、失業・介護などを含めると8兆円以上の疾病負担があると計算される。目が悪くなることの生活上の負担は思っている以上に大きい。

世界には研究所を併設したアイセンターが標準的に設置されているが、日本にはそのような施設がゼロであった。こうしたなかで、医療、福祉、社会実験を一体でできるアイセンターをオープンした。ソーシャルベンチャーも併設している。

■ 網膜再生医療

2014年に、iPS細胞で作製した網膜を「加齢黄斑変性」の患者に移植する手術に成功した。世界最初の成功事例となったことで、14年のNature誌の「Natureの今年の10人(Nature's 10)」に選ばれ、“勇敢なサイエンティスト”という称号を得た。

日本の研究者はルールがつくられてから動くことが多いが、私はルールができる前に1例目を成功させるつもりだった。その結果、ルールも一緒に変わった。周りの人からは「行き当たり“ばっちり”」と言われた。科学技術の進歩が早すぎるため、プレーヤーとなる研究者が主導していかないと、使い勝手の悪いルールがつくられてしまう。

網膜移植については、治療という観点でみると安全であったが、iPS細胞だから危険だと止める人も多かった。日本では、リスクの許容範囲を決めずにルールを決めるので、ゼロリスクが求められている。これは国民性でもあり、メディアがリスクだけに焦点を当てる傾向があることも原因だ。

網膜細胞医療は自分の細胞による移植から他人の細胞を用いた移植の段階になる。これからは眼科医が中心になった仕組みづくりにも挑戦する。私の目標である視細胞の移植も臨床に近づいてきている。細胞単体のモノではなく医療をコトとして、ニーズがあるアジアに展開していきたい。

課題の1つは熟練者が不足していることだ。現在、iPS細胞は職人技でつくっている。そうした匠の技をAIで吸い上げて、ロボットで実行できるようにしたい。

再生医療は2050年に国内2.5兆円、世界で38兆円の市場になると予測される。2020年代の半ばまでの、効果がコストに見合わない期間のギャップを埋めるのがアイセンターだ。見えなくなってから福祉で救い出すだけでなく、早い段階から治療とロービジョンケアとセットで行うことが必要である。ロービジョンケアは今の福祉で光が当たっていない。視覚障害のイメージ変革、就労支援を行う「i see!運動」や、アイセンターに視覚補助システム等のプロトタイプを置き、使ってもらうといった活動を進めている。これからも、アイセンターの活動に企業がどんどん参画していただけることを期待している。

【産業技術本部】

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