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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年5月24日 No.3362 フードチェーン農業と情報化で農業を成長産業に<上> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(宮城大学名誉教授) 大泉一貫

大泉研究主幹

農業を成長産業にするための改革が進められている。「攻めの農林水産業」と銘打ち、2013年に安倍政権下で本格化した政策である。企業参入の自由化、生産調整の廃止、農協改革、TPPでの貿易の自由化・関税の削減、資材費低減等農業の競争力強化、卸売市場改革などである。こうした改革で、これまでの農政の構図がガラッと変わったのは事実だが、改革は途上にあり、中途半端な感も否めない。

そのよい例がコメの「生産調整廃止」である。農家自身が、農産物の価格やニーズなど、市場の動向をみて作付けを決められるようにする改革である。それが結果としてどうなったかといえば、確かに農林水産省が生産調整目標数量の配分はやめたものの、自治体が今までどおり作付け目標を提示しており、農家にとっては何も変わってはいない。

しかも、生産調整廃止というアナウンス効果でコメが供給過剰に陥り米価が下がるのではと心配した農水省は、高額な補助金を使って飼料用米の生産を奨励し、主食用米の供給量を減らす政策に打って出た。これは実質的な生産調整強化にあたる。生産調整はいったい廃止したのか強化したのか、中ぶらりんの状態にある。農政はなかなか一筋縄ではいかない。政界には相変わらず保護農政こそが大切とする考えが根強いからである。

だが、農業の実態はそのような改革の遅れを待ってはくれない。15年に138万戸あった農業経営体は、30年にはかなりの高い確率で40万戸に減少すると予測されている。少数の農家で農業産出額を増加させる構造改革を急速に進めるよりほかない。

21世紀政策研究所の「新しい農業ビジネス」プロジェクトでは、そうした農業の成長可能性を探っている(『2025年日本の農業ビジネス』講談社現代新書)。

15年時点で、5千万円以上の販売額の農業経営者は全国におよそ1万7000戸あるが、彼らは、すでにわが国農業産出額の4割強を占めている。農業を成長させるには、彼らの産出額シェアを急速に拡大させることが重要となる。新たなビジネスモデルをつくり、産出額を拡大する農業経営が現れ始めたことに期待がかかる。政策も彼らのビジネスを拡大させることに焦点を合わせるべきだろう。

そのビジネスの特徴は、実需者等とのBtoBの契約によってマーケットインの体制を築き、需要に向き合った農業をしていることだ。フードバリューチェーン全体を視野に入れていることから、私たちはこれを「フードチェーン農業」と呼んでいる。

これまでの農業は、注文があろうがなかろうが、また需要があろうがなかろうが、コメなら政府の作付け目標に従って作るのが普通であった。いわゆる「プロダクトアウトの農業」である。それに対し、「フードチェーン農業」は、注文を受けてから、つまり需要を見届けてから作付けを開始する農業である。今では、コメ経営に限らず、野菜や畜産など、わが国のリーダー的農業経営者の多くに取り入れられるようになった。経営者はマーケットデータに依拠しながら「経営システムの改革」を目指し、規模を拡大し続けている。25年にはわが国農業のシェアの7割近くを握るまでに拡大するのではないかと推測している。農産物の流通構造の変化、特に業務用の拡大がそれを後押しするとみている。

彼らのような経営がわが国の中心になって初めて成長産業化を目指す農政は本格的な軌道に乗ることになる。それに拍車をかけるのが、近年特に話題になっている「農業の情報化」である。21世紀政策研究所では、「情報化によるフードチェーン農業の構築」として農業の情報化をテーマにした報告書を近々出す予定である。農業の成長と農業ICTについては次号で解説する。

【21世紀政策研究所】

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