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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年6月14日 No.3365 社会的インパクト投資とその示唆について聞く -企業行動・CSR委員会

経団連は6月1日、東京・大手町の経団連会館で企業行動・CSR委員会(三宅占二委員長、二宮雅也委員長、津賀一宏委員長)を開催した。今年1月の「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」の全面施行を受け、休眠預金を活用した英国の事例をはじめとする、諸外国の「社会的インパクト投資」の取り組みおよび日本での展開における留意点について、明治大学経営学部の塚本一郎教授の講演を聞き意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ 社会的インパクト投資とソーシャル・インパクト・ボンド

社会的インパクト投資とは、財務的リターンのみならず社会的・環境的リターンも追求する投資だ。その一手法として、(1)投資家が資金を提供し、(2)NPO等のサービス提供団体が社会的成果を向上させるサービス(予防・介入活動)を実施し、(3)アウトカム(成果)に応じて政府が資金を後払いする、成果連動型の「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」がある。SIBでは投資家、サービス提供団体、政府に加え、契約締結など関係者間を調整する中間支援組織、アウトカム指標の達成水準を評価する第三者評価機関が主な関係者となる。

SIBのストラクチャー(典型例)

アウトカムに応じた政府からの支払いの原資は、当該サービスを実施しなかった場合と比して節約できた財政コストだ。投資家はサービス経費を差し引いた分をリターンとして得る。もしアウトカムが生じなければ、行政からの支払いはなく、投資家はその投資分を失う。この意味で、SIBは債券というよりむしろエクイティに近い特徴を持つ。

これにより政府は財政コスト削減に加え、実施団体を通じた革新的なサービス提供も可能となる。投資家は金銭的リターンに加え、社会的貢献ニーズの充足という社会的リターンも得られる。サービス提供者は寄付以外の資金調達手段を得られる。

■ インパクト評価とエビデンス

SIBにおいてインパクト評価は重要な要素だ。英国におけるインパクト評価では、サービスを受けた集団と受けなかった集団を比較し、サービスの実施とアウトカムとの因果関係を評価している。

今後のSIBではビッグデータを用いた評価に期待が寄せられる。官民のデータを統合したデータベース作成が必要となるので、大学や専門家も交えた産官学のプラットフォームが有用となるだろう。また、評価の信頼性・透明性を確保するため、客観的なデータや先行研究、科学的知見を共有しつつ、評価基準を標準化する必要がある。ただし、評価基準を意識するあまりサービス実施団体の活動が画一化し、革新的な取り組みを阻害しないよう配慮が必要だ。

■ 今後の日本のSIB

英米のSIBではアウトカム評価指標の中核要素は財政支出の削減で、そのほかの成果は軽視されがちだ。日本では地域の活性化のような経済価値、社会的孤立の解消のような社会価値も評価要素に含めてはどうか。近年では東アジアでもSIBの事例が生まれつつある。国際的ネットワークをつくり海外の動向を学びつつ日本に適合したモデルをつくり上げる必要がある。

【SDGs本部】

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