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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年6月28日 No.3367 「観光立国Japan-日本の成長戦略を担う観光振興ビジョン」 -経団連昼食講演会シリーズ<第37回>/小西美術工藝社のアトキンソン社長が講演

経団連事業サービス(中西宏明会長)は6月15日、東京・大手町の経団連会館で第37回昼食講演会を開催し、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏の講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 日本経済を取り巻く環境

現在、全世界でみると観光産業のGDP寄与率は約1割を占め、電気製品、燃料に次ぐ第三の基幹産業として位置づけられるようになっている。また、2016年に12.4億人だった観光客数は、30年までに18億人になると予想されており、各国は観光産業の振興に力を入れている。

日本では、訪日外国人が5年前の800万人から今年度は3300万人に、観光収入が1兆円から5.3兆円に増加する見込みであり、政府は、20年までに4000万人・8兆円、30年までに6000万人・15兆円とする目標を掲げている。

日本は世界でGDP第3位、輸出総額第4位の経済大国である。これは技術力や労働者の勤勉性によるというよりも、圧倒的に人口が多いことに起因している。

しかし、今後は60年までに生産年齢人口が3274万人減ると予想されている。人口減少による需要減少を補って経済規模を維持する手段として、外国人観光客の誘致が有効なのである。

■ 多様な観光資源を備えている日本

観光資源は、自然、文化、気候、食事の4つから構成される。

日本はこれまで文化や歴史の発信に力を入れてきたが、興味のない外国人にはまったく響かず、観光キャンペーンは不十分だったといえる。日本には文化や歴史のみならず、夏に泳げるビーチや冬にスキーができる山がある。食事も和食のみならず、全世界のおいしい料理を堪能することができる。日本は多様な観光資源を備えた、外国人観光客獲得の潜在能力の高い国である。

私は日本政府観光局の特別顧問を務めており、観光戦略や情報発信についてさまざまな提言を行っている。今年の2月には、私の監修のもと、日本のさまざまな観光資源を盛り込んで「楽しさ」を強調したPR動画を公開した。この動画はこれまでの再生回数が1.2億回となり、大好評を博している。今後は、観光局のウェブサイト内の食、山、ビーチ、アート等のテーマにアクセスした人の属性データ(国籍、性別、年齢)の分析に基づく効果的な情報発信を進めていく。

■ 日本の観光戦略における課題

日本の観光地においてよくみられる問題点を3点指摘したい。(1)その観光地の歴史や建築物に関して、外国人がわかる言語での説明書きがほとんどない(2)そのような説明書きがあっても翻訳が稚拙で理解しにくい(3)撮影するな、触るな、開けるな、食べるな、飲むな、という禁止を連ねた案内板が多い――。これでは外国人が日本での旅行を楽しむことができず、「おもてなしの国」とはいえない。

今後、観光局は文化財や国立公園の解説案内板の制作時にネイティブライティングを取り入れて、年間50件のペースで設置を進めていく計画である。

日本のGDPは世界第3位だが、生産性(1人当たりGDP)は世界第28位である。ワールドエコノミックフォーラムによる「人材の質」ランキングでは世界第4位なので、決して日本人の能力が劣っているわけではない。日本は製品・サービスが高品質でありながら低価格であることが問題なのである。単価を引き上げていかないと、いずれ経済規模が縮小してしまう。

観光産業においても施設の整備や付加価値の向上で単価を上げていく必要がある。多数の団体客をできるだけ安く受け入れるという薄利多売の昭和の観光戦略は変えないといけない。五つ星ホテルの誘致も進めるべきである。日本全体で覚悟をもって観光戦略に取り組んでいかなければならない。

【経団連事業サービス】

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