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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年7月26日 No.3371 投資関連協定に関する日本政府の取り組みと投資家対国家の仲裁の活用について聞く

経団連は7月5日、東京・大手町の経団連会館で、投資協定等への取り組みと国際的な議論の動向に関する会合(座長=神戸司郎通商政策委員会企画部会長)を開催し、外務省経済局の難波敦交渉官、経済産業省通商政策局の鈴木謙次郎経済連携交渉官から、投資協定等に関する日本政府の取り組みと国際的な議論の動向について、国際商業会議所国際仲裁裁判所副所長を務める小原淳見弁護士から、投資家対国家の仲裁の意義と活用について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 外務省・難波交渉官

投資協定は日本企業の海外進出を後押しする重要なツールであり、日本政府は投資関連協定について、2020年までに100の国・地域を対象に署名・発効を目指すアクションプランを16年に策定、これに基づき精力的に投資関連協定の交渉を進めている。交渉においては日本企業からの要望が重要な要素となる。

交渉上の課題の1つとして、投資受け入れ国からのISDS条項(投資家対国家の紛争解決)に対する不信感の高まりが挙げられる。UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)において、ISDSのあり方について検討が開始されているほか、エネルギー憲章条約も同様の観点を含め「近代化」のための改正の議論がある。日本としては、TPPに規定されるように、ISDSが投資保護と国家の正当な規制権限のバランスの取れた持続可能な制度となるよう、多国間の枠組みでも建設的に議論に参画したい。

■ 経済産業省・鈴木経済連携交渉官

日EU EPAの投資家対国家の紛争処理手続きを含む投資保護等については、協議を継続している。日本がISDSを推進する一方、EUはICS(常設投資裁判所)を提案しており、意見の乖離が大きい。ISDSのもとで投資家寄りの決定が下されれば国家の規制権限が制約されるとの反対運動が背景にある。ISDSは、双方がそれぞれ選任した仲裁人と双方が合意した仲裁人の3名で判断がなされるのに対し、ICSは締約国の選定したリストから無作為に選定されるフルタイムの裁判官、二審制の採用などが特徴である。投資家が裁判官を選定できないこと、適格性要件の厳格化等により裁判官の選択肢が大きく狭まる懸念がある。何が公正・公平な制度かをあらためて考えなければならない。EUは、二審制について、判断の一貫性を確保し予見可能性が高まると主張するが、上訴審設置・維持にかかるコストや、審議の長期化によるコスト増大が懸念される。

投資関連協定の推進にあたっては、中・長期的な観点が重要である。投資協定未締結の地域には、ブラジルなど中南米、南アなどアフリカ諸国などがある。企業の海外展開の状況や資源エネルギーの安定供給確保の観点等から、企業の要望を踏まえ交渉したい。

■ 小原弁護士

企業は投資先の外国政府(立法・行政・司法)に翻弄されがちである。不当な取り扱いを受けた場合、日本政府に相手国との交渉を依頼しても相手国が応じるとは限らず、強制力もない。相手国の国内裁判の利用も可能だが、司法の腐敗や独立性の欠如など問題も多い。

ISDSの利点は、政治色の少ない中立的な手続きで強制力のある法的判断が得られることにある。ISDSでは企業が少なくとも1人仲裁人を選ぶ権利が確保されているが、EUがカナダとの条約のなかで提案するICSでは、国家があらかじめすべての裁判官を国際公法の研究者等から選ぶことから、手続きが政治化し、企業の視点が十分に反映されないまま判断が下される懸念がある。したがって、企業にとって投資協定にICSではなくISDSが盛り込まれることが重要である。

このように、投資協定では通常、企業が相手国との紛争を中立的な手続きで自ら法的に解決できる法的枠組み(ISDS)が提供されているが、わが国の投資協定発効数の少なさと相まって、日本企業による仲裁申立件数は、海外投資の規模に比して著しく少ない。投資決定の段階から、投資協定の条文に照らして保護されるような構成を選択するなど、投資協定の戦略的活用が有益である。

【国際経済本部】

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