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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年8月9日 No.3373 第116回経団連労働法フォーラム -弁護士報告「均等・均衡待遇に関する労務管理」「企業が押さえておくべきハラスメント防止対策」

経団連および経団連事業サービスは7月26、27の両日、経営法曹会議の協賛により「第116回経団連労働法フォーラム」を東京・大手町の経団連会館で開催した。弁護士報告Ⅰ、Ⅱの概要は次のとおり。

[報告Ⅰ]
「均等・均衡待遇に関する労務管理」
~同一労働同一賃金ガイドライン案と長澤運輸最高裁判決を踏まえて
弁護士 沢崎敦一氏(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)

■ パート有期法の概要

パート有期法は、今年6月29日に成立した。不合理な待遇を禁止し(同法8条)、有期雇用契約者にも均等待遇規定が適用される(同法9条)。また、待遇に関する説明義務が強化される。同法は、大企業では2020年、中小企業では2021年のそれぞれ4月1日に施行される。

■ 同一労働同一賃金ガイドライン案、長澤運輸最高裁判決について

同一労働同一賃金ガイドライン案は、パート有期法の解釈を明確化した指針案であるが、ガイドライン案だけを読むのではなく、同法8条、9条の条文に立ち戻る必要がある。

今年6月1日に出されたハマキョウレックス事件、長澤運輸事件の最高裁判決は、同法8条の解釈の指針となり得る重要判決である。

■ 差別的取り扱いの禁止

同法9条は、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取り扱いをしてはならないと定める(均等待遇)。同条に該当すれば、賃金のみならず、教育訓練、福利厚生などすべての待遇に及ぶので、速やかな対応が求められる。

■ 不合理な待遇の禁止

同法8条は、すべての短時間・有期雇用労働者を対象に均衡待遇を求める規定である。(1)「通常の労働者」の待遇との間に相違があるか、(2)職務内容等(①職務の内容 ②職務の内容・配置の変更の範囲 ③その他の事情)に相違があるか、(2)の違いの有無を考慮して(1)の相違は不合理ということができるかで判断する。待遇の相違の有無については個別比較が原則である。「その他の事情」は、労使交渉の経緯、定年後再雇用であることも考慮要素となり得る。

■ 均等・均衡違反かどうかの具体的な判断

均等・均衡に関するルールに違反するかどうかは、同法8条、9条の条文に立ち戻って考える必要がある。

基本給について、賃金制度が正規と非正規社員とで異なる場合、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情の客観的・具体的な実態に照らしての説明が可能でなければならないとのガイドライン案の記載は妥当である。大企業の場合、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が異なることが大半なので、説明が可能であろう。他方、中小企業の場合は、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が異ならず、説明が困難なこともあると思われるので注意が必要である。

■ 実務対応

まず、(1)社内における雇用形態および雇用形態ごとの待遇を整理するなど現状を把握し、「通常の労働者」との処遇格差の有無を確認する。次に(2)適用されるルールがパート有期法9条か8条かそれ以外かを確認する。さらに(3)待遇差ごとの検証(例えば、待遇差が「理由とした」ものか、説明できるか等)をする。最後に(4)待遇差について合理的理由を具体的・客観的に説明できない場合、職務内容や待遇などの見直しをするかどうか、無期化するかの方針の決定とその実行、という手順で検討する。

また、同法の趣旨達成のために正規労働者の賃金等の引き下げが必要な場合、代償措置・関連労働条件の改善、経過措置を講じることも考え、労働組合と協議を尽くすことが重要となる。

<質疑応答・討論>

午後の質疑応答・討論では、最高裁判決、ガイドライン案、パート有期法の具体的内容についての質問のほか、「自社では定年後再雇用者は定年前と同じ仕事で、5割くらい処遇が下がるが、長澤運輸事件の最高裁判決を踏まえると問題はないか」など自社の取り組みに関する質問が多数なされ、弁護士が各自の見解を示した。

[報告Ⅱ]
「企業が押さえておくべきハラスメント防止対策」
弁護士 木村恵子氏(安西法律事務所)

■ ハラスメントをめぐる昨今の状況

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における相談件数では、セクシュアルハラスメントに関する相談が最も多く、次いで妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いが多い。また、個別労働紛争制度の相談件数等や精神障害の労災支給決定件数の要因では「いじめ・嫌がらせ」がトップである。企業にとって安全配慮の観点からも、ハラスメント対策は必須であり、また「働き方改革」においても課題とされている。

職場のハラスメントは、企業イメージの悪化、人材流失等を招来し、人手不足の現在、放置することは企業にとって損失であり、ハラスメント防止対策が喫緊に求められている。

■ ハラスメントの防止措置義務と事後の救済

国は企業にセクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメント(妊娠・出産、産前産後休業、育児休業等に関するハラスメント)についてはハラスメント防止措置義務を課しているが、パワーハラスメントについては直接防止措置を義務づけてはいない。ハラスメントが発生すると、企業、上司は不法行為などに基づく損害賠償請求をなされ、また、労働者がメンタル不調になった場合に労災認定がなされることもある。

■ セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクハラについては、男女雇用機会均等法、セクハラ指針により、事業主は方針等の明確化、周知啓発、相談体制の整備、事後の迅速・適切な対応などの措置を講じなければならない。労災のセクハラ認定について、やむを得ず被害者が行為者に迎合するメール等の送付、行為者の誘いの受け入れは、セクハラを否定する理由にはならない。また身体的接触はなく、性的な言動のみでセクハラを認めた最高裁判決がある。

■ マタニティーハラスメント(マタハラ)

マタハラには、制度利用型と状態型がある。しかし、業務分担や安全配慮等の観点から、業務上の必要性に基づく労働者の意向の確認行為までがハラスメントになるものではない。

■ パワーハラスメントの類型と防止策

パワハラには、身体的、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大、過小な要求、私的なことへの過度の立ち入りなど6類型があるが、セクハラと異なり、業務指導の延長線上にあり該当性の判断が困難である。防止対策としては、セクハラ、マタハラと同様の対策に加え、コミュニケーションの活性化、円滑化の研修、適正な業務目標の設定や長時間労働の是正が望まれる。

■ 企業がとるべきハラスメント防止策の留意点

経営トップからのハラスメント防止宣言、ルールの策定と周知、アンケート等の実施、周知啓発、教育研修、相談窓口の設置と社内周知などの体制を整備することが防止措置として求められる。ハラスメントの事後対応としては、行為者への懲戒処分、必要に応じた人事異動、再発防止のための周知がある。懲戒処分にあたって、従前の軽い処分を今後重い処分にする場合は研修等で事前に周知すべきである。

再発防止措置としては、セクハラの場合は、行為者が取引先であってもセクハラ防止対策の要請はすべきであり、マタハラの場合は、業務体制の整備等必要な措置を講じ、パワハラの場合は、コミュニケーションの活性化と長時間労働の是正等の環境整備に留意すべきである。

<質疑応答・討論>

午後の質疑応答・討論では、「更新回数の上限を設けている有期契約労働者でかつ育児休業取得中の者を更新回数の上限を理由に雇止めができるか」など、企業の対応に関する質問が多数寄せられた。

また、新入社員の業務指導における法的留意点の質問に対しては、人格侵害や社会通念を超える指導はやってはならない、職場に仲間をつくらせる、長時間労働をさせないなど、弁護士からさまざまなアドバイスがなされた。

【労働法制本部】

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