経団連は9月12日、東京・大手町の経団連会館で情報通信委員会(遠藤信博委員長、篠原弘道委員長、金子眞吾委員長)を開催し、三輪昭尚内閣官房内閣情報通信政策監(政府CIO)から、今後のIT総合戦略の推進について説明を聞いた。概要は次のとおり。
■ 政府のIT戦略
2000年に制定されたIT基本法に基づく政府のIT戦略(※)は、当初、ブロードバンドインフラ整備が中心であったが、その後はIT利活用へと重心が移り、近年では、デジタル・ガバメントとデータ利活用が2大テーマとなっている。
また、IT戦略室のトップである政府CIOには、府省横断的な司令塔機能を発揮するため、戦略づくりにとどまらず、各省庁を副政府CIOや政府CIO補佐官を通じて指導する権限や政策を実現するために必要な人員が付与されている。
■ 政府CIO就任にあたって
政府のIT戦略の大きな道筋は、遠藤紘一前政府CIOがつくってくれた。その路線を引き継ぎつつ、行政の効率化、国民の利便性向上、企業の活性化という政策目標を常に意識し、施策を立案・実行していきたい。そして、その成果を「見える化」し、国民が豊かさを実感できるよう、IT戦略のテーマである「世界最先端デジタル国家」を創造したい。
■ デジタル・ガバメント
利用者中心の行政サービスの実現に向け、18年1月にeガバメント閣僚会議(現デジタル・ガバメント閣僚会議)が「デジタル・ガバメント実行計画」を策定し、6月に各府省が実行計画を踏まえたデジタル・ガバメント推進のための中長期的な計画を策定した。政府全体として、業務改革(BPR)の徹底とデジタル化の推進に取り組んでおり、オンライン化の徹底および添付書類の撤廃を主眼においた「デジタルファースト法案」の国会提出に向けた準備を進めている。
■ データ利活用の促進
わが国ではデータを利活用したビジネスの展開が十分に進んでいない。現在行政保有データの100%オープン化を目指すオープンデータの取り組みを進めており、民間企業等データ活用を希望する者とデータを保有する府省が対話する「オープンデータ官民ラウンドテーブル」を継続的に開催している。地方公共団体についても、20年度までにオープンデータ取組率を100%にするという目標に向け、政府としてツールの提供や人の派遣を通じて支援している。
また、個人データを含めた多種多様かつ大量のデータが円滑に流通するためには、PDS(Personal Data Store)や情報銀行、データ取引市場のような、個人の関与のもとでデータ流通・活用を進める仕組みが必要である。
■ 重点プロジェクト
デジタル改革を一層推進し、その成果を「見える化」するため、自動運転や農業分野、港湾・物流分野におけるデータ連携を重点プロジェクトとして位置づけ取り組んでいる。民間企業のニーズを十分に踏まえながら、自動運転にかかる制度整備や技術開発、農業分野や港湾・物流分野におけるデータ連携基盤の整備等を行っていく。
■ 今後のIT政策の方向性
今年6月に閣議決定されたIT新戦略は、行政・民間のデジタル化の推進のみならず、AIや5Gなどの先端技術を活用した産業の活性化も「重点取組」に掲げている。政府はIT戦略とは別に科学技術政策やイノベーション推進にも力を入れており、それらは相互に結びついている。企業のCIO・CTOとしての経験を活かして職務を果たしたい。
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意見交換では、出席した委員から「行政データのオープン化は、利用者のニーズを踏まえて優先順位をつけて実施すべきだ。データ利用者にとってはデータの鮮度も重要な要素」「自治体クラウドの導入が進んだことは評価するが、行政の効率化には自治体の業務そのものの共通化・標準化を進めることが必要」「行政のIT人材が不足している。育成には時間がかかることから、中長期的なスパンで取り組むべきだ」といった意見が出された。
※ 01年1月に「e-Japan戦略」策定。現在の戦略は「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(18年6月)
【産業技術本部】