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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年11月8日 No.3384 インパクト評価の手法について聞く -企業行動・CSR委員会企画部会

説明するJICAの江口氏(右)と青柳氏

経団連の企業行動・CSR委員会企画部会(森川典子部会長、平居義幸部会長)は10月2日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。国際協力機構(JICA)評価部の江口雅之審議役兼次長、同部の青柳恵太郎コンサルタントから、JICAの事業評価を題材にインパクト評価の手法と活用について説明を受けるとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ JICAの事業評価

JICAが事業評価を行うのは、評価で得られる提言や教訓等を活用する「学習」と、評価を公表する「説明責任」の2つの目的からだ。JICAでは技術協力、有償資金協力、無償資金協力の3スキームにかかわる2億円以上の事業に対し事後評価を実施し、その内容を公開している。

評価では開発援助委員会(DAC)が提唱した5つの視点(妥当性、有効性、インパクト、効率性、持続性)をもとに、レーティングを行っている。その際、評価者倫理に基づきエビデンスとロジックを伴う責任ある説明、事前計画と事後の達成度の比較、客観的・定量的な確認、適切な要因分析を踏まえた提言・教訓の導出に努めている。また、定量的な効果を厳密に測定する「インパクト評価」のほか、事業の実施中のプロセスに着目して、エスノグラフィー(行動観察)等の手法を用いて事業効果発現の要因を検証・分析する「プロセスの分析」にも取り組んでいる。

■ インパクト評価手法とは

インパクト評価は、課題解決を意図した行為である「介入」によって生じた変化を測定・検証するものだ。介入対象者に生じた変化から、仮に介入がなかった場合に生じていたであろう変化を除いたものが介入効果であり、後者の測定なくしてインパクト評価はなし得ない。

ただし、介入がなかったと仮定した状態で発生する変化は、何らかのかたちで推定することになる。具体的には、介入対象者と特徴が似た代替集団を用いて推定することになるが、理想的な集団は簡単には見つからない。例えば、対象者の介入前後を比較する方法では介入がなくても生じた変化を排除できないし、単に介入対象者とそれ以外を比較する方法では一方が有している特別な属性がもたらす違いを取り除けない欠点がある。要するに事前の状態や非対象者は、介入対象者と似ているとは考え難いのである。

むしろ、特徴が似た集団をあらかじめ意識的につくることが重要だ。理想的な手法は、政策・施策の潜在的対象者をランダムに介入対象者と非対象者に分けるランダム化比較試験(RCT)だ。これができない場合は事後的に似た集団を探し出すようなことになるが、高度な専門知識が必要だ。

インパクト評価に求められる正確性・信頼性は目的によって変わってくる。精度が低くても、有用な意思決定材料になることもある。一方で助成財団のなかには信頼性が高い効果検証結果があることをもって助成を決定しているところもある。広告・宣伝なら取り組みを示すだけでよいかもしれない。

■ インパクト評価手法の使いどころ

国際開発分野では、課題解決に有効な介入手法について不確実性が高い分野やテーマもある。そこで、JICAでは効果的な手法を選択できるよう、インパクト評価を通じてその介入効果を厳密に測定し、手法選択の意思決定に資するエビデンスをつくっている。したがって、インパクト評価は事業の検証手段以上に、課題解決に向けて介入手法を特定する準備手段といえる。

【SDGs本部】

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