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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年11月29日 No.3387 「米国中間選挙結果と今後の米国政治の行方」 -21世紀政策研究所が米国セミナーを開催

21世紀政策研究所は、11月6日の米国中間選挙の直後となる8日、都内で米国セミナー「米国中間選挙結果と今後の米国政治の行方」を開催した。同研究所米国プロジェクトの久保文明研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授)と、前嶋和弘研究副主幹(上智大学総合グローバル学部教授)が講師として登壇した。講演の要旨は次のとおり。

「2018年中間選挙と今後の米国政治」(前嶋研究副主幹)

■ 中間選挙結果

民主党が下院の過半数を奪還し、共和党が上院の過半数を維持する「ねじれ」の状態になった。大統領の政党が中間選挙で議席を失うのは通常のことであり、今回の共和党の下院議席の減少は驚くほどではない。逆に、上院では共和党は議席を増やしている。下院の結果を見ると、民主党は都市部だけでなく、もともと保守的な有権者層が多い郊外(Suburb)で議席を伸ばしている。共和党は、都市および郊外を除く地域(Country)で議席を維持するかたちとなった。

今回の中間選挙で争点となったのは医療保険、移民、景気、銃規制などであるが、言い換えれば“トランプ的なもの”をどう見るかであった。大統領が中間選挙で前面に出ることは異例である。かつて米国政治においては、三権分立のなかで、たとえ同じ政党であっても大統領と議会が対立することが基本であり、他方、議会のなかでは共和党と民主党が妥協することができた。しかし今は分極化が際立っており、議会内の両党間での妥協が難しくなっている。

■ 厳しくなる政権運営

妥協ができない分極化のもとで、大統領、上院の多数党および下院の多数党が一致しない分割政府の状態になると、1期目の中間選挙以降のオバマ政権がそうであったように、政策を動かすのが難しくなる。下院では、権限の大きい各委員会の委員長を民主党が独占することになる。

ロシア疑惑では新しい動きが出てくるだろう。下院で弾劾手続きが開始される可能性もある。

外交は大統領の裁量が大きく、内政が動かないならば、外交で成果を挙げようとするだろう。トランプ大統領はすでに2020年のことを考えている。今回応援演説したのは、20年の大統領選挙で激戦が予想される州が中心である。他方、民主党は大統領候補になるような次世代のリーダーがまだ固まっていない状況である。

「トランプ外交―中間選挙後の展望」(久保研究主幹)

■ 下院の多数派が変わっても、外交・安保政策には大きく影響しない

外交においては、そもそも大統領が自由に行使できる権限が大きいため、下院の多数派が民主党に変わったことによる影響は内政ほど大きくはない。ただし、議会の承認が必要な国防費の増額は今までのように容易にはいかなくなるだろう。

通商面では興味深い力学がある。伝統的に共和党議員は自由貿易主義の、民主党議員は保護貿易主義の傾向がある。トランプ大統領は通商面では民主党に近く、また中国に厳しい通商政策は多くの民主党議員が支持している。それゆえ、今回の中間選挙の結果で、トランプ政権の通商政策が大きく変化することはないだろう。なお、トランプ大統領の貿易赤字は悪という信念は30年来のものである。

■ 二元的大統領制

今年9月にニューヨーク・タイムズ紙に匿名で掲載された政府高官の論考は、現政権を、衝動的で予測不可能な面のあるトランプ大統領と、専門的な能力をもった“大人”の高官たちという二元的大統領制(Two Track Presidency)と評している。

■ 対中政策の変化

昨年12月に公表された「国家安全保障戦略」は体系的なもので、国境管理などについても述べつつ、公式文書として安全保障についてかなり踏み込んだことを述べている。中国とロシアを修正主義勢力と定義し、中露の両方に厳しい姿勢を示している。トランプ政権は、中国に対する強い警戒心という点で過去の政権と大きく異なる。

国家安全保障戦略、10月のペンス演説、米国への投資規制と輸出管理に関する一連の法規制など、米国政府、議会が、中国に対して厳しい態度をとるようになっている。そのような大きな変化を注視する必要がある。

【21世紀政策研究所】

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