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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年1月24日 No.3393 転換点を迎える中国外交~日本は米中経済分断に備えを -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授) 青山瑠妙

青山研究委員

■ 高まる米中の緊張関係

ニクソン政権以降、とりわけ中国がおよそ40年前に改革開放政策を採択してから、アメリカや日本など西側先進国は対中関与政策をとり続けてきた。1989年の天安門事件で厳しい国際環境に陥った中国は韜光養晦(とうこうようかい)政策を採用し、ひたすら自国の発展に専念した結果、経済規模で世界第2位の経済大国へと成長した。米中両国はイデオロギー面の対立と安全保障面の相互不信を増幅させながらも、地球温暖化問題など協力できる分野を見いだし、安定した関係維持に努めてきたが、近年、エンゲージメント政策は失敗したという認識がアメリカにおいて急速に広がっている。

今のアメリカにとって中国のキーワードは「競争相手」だ。2018年1月、トランプ政権下で初めて公表された「国家防衛戦略」では、中国はロシア、北朝鮮、イラン、越境するテロリスト勢力よりも主要な競争相手とみなされた。同盟国と力を結集して、中国に対しては強硬政策で臨むことは、アメリカでコンセンサスができている。

日本を含め多くの国々が、台頭する中国の行動の「異質性」に気づき始めている。日本において日中関係悪化のもとで対日レアアース輸出を制限する問題が発生したが、韓国もTHAAD(高高度防衛ミサイル)問題の際に経済分野において中国の「制裁」を受けた。市場経済のあり方や中国で活動する外国企業に対する技術移転の強制、さらには国内における社会への抑圧などが報じられ、「中国はわれわれと異なっている」との認識が深まっていった。アメリカの対中認識の変化を受けて、領土問題について「アメリカもようやく中国の強硬姿勢に目覚め、日本と共同歩調をとるようになってよかった」と思う人も多い。

■ 本質は覇権争い

長引く米中貿易戦争の本質は米中の覇権争いであり、その主戦場は次世代新技術にある。

次世代通信「5G」分野における中国排除の動きが報じられているが、問題はこうした分野の技術が軍民両用であることにある。日本にとって5GはSociety 5.0を実現するための重要な通信インフラであり、まさに将来の経済発展の基盤である。米中の覇権争いは、将来に向けて重要な分野において日本をはじめとする主に先進国が中国と経済分野において協力できるかどうかにかかわってくる。

経済の視点からいえば、現状ではコスト意識のないまま、米中覇権争いはハイテク分野での米中decoupling(分断)の方向に向かおうとしている。

■ 中国の外交姿勢と日本の課題

米中間の緊張関係が高まるなか、中国の融和姿勢が目立っている。

米中通商交渉については、中国が大きく譲歩すると予想される。中国国内における外資企業への技術の強制移転を禁じる新法制定も動き出し、輸出拡大に向けた買い付けも行われるであろう。

李克強総理の訪日や安倍晋三首相の訪中によって、日中関係は確実に改善している。中国はEUとの関係強化にも力を入れている。そして東南アジア諸国との間でも関係改善が進み、今年はRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とCOC(南シナ海行動規範)草案が締結される予定である。他方、中国はアフリカ、中東、太平洋島嶼国への外交攻勢も強めている。

しかし、米中の貿易戦争を経験した中国は「アメリカがナイフを自分の首に突き付けている」とみており、国内では共産党の指導をさらに強化しようとしている。習近平国家主席は、貿易戦争の主戦場であるハイテク分野における自力更生、主要技術の研究開発に力を注いでいる。また、対外政策ではロシアや北朝鮮への接近が目立つ。つまり中国の対外政策は、今は柔軟だが、長期的には中国自身もアメリカとのdecoupling政策をとっており、米中の経済分断に向かう可能性が高い。

米中両国の大国間競争の激化の時代を迎え、日本がそうした競争に巻き込まれないための知恵は、新技術にかかわるルールづくりにある。中国はじめ新興国経済の変調で世界経済の先行きが不透明さを増しているなか、アジアは世界をリードする経済成長のエンジンであり、日本をはじめ、ASEANなどアジア諸国の役割が問われる。

中国の対外政策、そして中国をめぐる国際情勢は重要な転換期を迎えようとしている。

【21世紀政策研究所】

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