経団連(中西宏明会長)は1月31日、東京・大手町の経団連会館で、第1回「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を開催した。同協議会は、昨年12月に経団連が公表した「今後の採用と大学教育に関する提案」において、経団連と大学側との継続的な対話の枠組みとして設置を提起したもので、大学側からは就職問題懇談会座長の山口宏樹埼玉大学長はじめ趣旨に賛同する国公私立の大学団体の代表者が参加した。
会合では、採用と大学教育にかかる課題とあるべき方向性について活発な議論を行い、Society 5.0時代の人材育成に向け、「多様性」をキーワードに産学の連携強化を図ることで一致した。
今後の具体的検討は、同協議会のもとに分科会を設置し、実務担当者を中心に議論を進めることとした。また、課題認識や検討成果などを中間的に整理し、4月下旬開催予定の第2回協議会に報告することとした。経団連側座長を務める中西会長と大学側座長を務める山口学長の発言の概要は次のとおり。
■ 中西宏明経団連会長(経団連側座長)
「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」設置のきっかけは、経団連が2021年度以降入社対象の「採用選考に関する指針」を策定しないことを決めたことにあるが、経済界が抱いている問題意識は、採用スケジュールだけでなく、今後の日本を支えて国際社会で活躍できる人材を育成するための大学教育や中長期的な採用のあり方などを含んでいる。これらについて、大学側と率直に意見交換をし、共通理解を深め、具体的なアクションにつなげていきたい。
資本集約型から知識集約型に産業構造が変化するなか、重要となるのは人材であり、想像力と創造力である。Society 5.0時代には、専門知識のほかに、文理の枠を超えた幅広い教養とデジタル社会に必須となる数学や情報科学等の基礎的知識を、社会人の素養としてすべての大学生が身につけることが期待される。また、国際的に活動するうえでは、語学力のみならず、日本の歴史や文化についての深い知識も必要となる。
一方、企業も、これまで学生に求める具体的な能力やキャリア形成に対する考え方を大学や社会に明確に発信してこなかった点は反省すべきである。従来の新卒一括採用・終身雇用制度の限界が顕在化し、求める人材が多様化するなか、採用のあり方を再検討する必要がある。多様な価値観のなかでさまざまな知識を吸収し、新たな社会・企業像を創造する人材が求められている。
■ 山口宏樹就職問題懇談会座長・埼玉大学長(大学側座長)
大学は、未来を切り開く豊かな人間性と高い学力を備えた学生を社会に送り出すことを目的のひとつとしており、そのための環境整備が重要である。大学は4年間、または修士を含めた6年間でもって目指すべき人材育成が完結するが、現在の採用のあり方ではその一部が欠落する懸念が大きい。そうしたなか、産学が広い視点で採用と大学教育の本質を議論する場は重要である。昨年11月公表の中教審答申においても産学対話の重要性が謳われており、新卒一括採用や雇用慣行を見直す動きは、高等教育改革の後押しにもなると考える。
労働集約型経済から知識集約型経済へ移行するにあたり、産学連携の重要性はさらに増してくる。リカレント教育では、多様な働き方と学びのマッチングに向けた連携が不可欠であり、また、大学と社会を連結する取り組みとしてインターンシップの充実も検討すべきである。
さまざまな課題に対して、この協議会がよりプラクティカルな詳細設計を議論する場となればよいと考えている。
【SDGs本部】