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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年2月7日 No.3395 戦後国際秩序の地殻変動とWTO改革について聞く -通商政策委員会

経団連の通商政策委員会(早川茂委員長、中村邦晴委員長)は1月9日、東京・大手町の経団連会館で、国際経済研究所の大島正太郎理事長との懇談会を開催した。米中の通商をめぐる緊張が高まる背景には、世界貿易機関(WTO)のもとでの多角的貿易体制の機能不全が指摘される。WTO紛争解決手続の上訴審にあたる上級委員会委員を務めた大島氏は、昨今の保護主義の高まりや現行のWTOの紛争解決手続への米国の批判は、WTOの抱える課題の本質に関わると指摘した。大島氏の講演の概要は次のとおり。

■ 戦後国際秩序の地殻変動

現在、戦後の国際秩序は地殻変動とも呼べる大きな変節点に差し掛かっている。これまで自由主義経済を前提とする国際貿易投資体制は、経済成長に資するものとして重視された。しかし近年、富者に有利なグローバル化が格差の拡大を招くとの不満から、各国において国内政治を優先する動きが高まっている。

こうした地殻変動の背景には、戦後の世界経済の発展と貿易体制の歴史がある。1948年に発足したGATT(関税及び貿易に関する一般協定)は、物品の自由化交渉(ラウンド)を成功させてきた。複雑化する経済の実態に対応できるルールづくりが必要との経済界の要望を受け、GATTは95年にWTOへと変遷を遂げ、物品にとどまらず、サービスや知的財産も協定の対象となった。さらに、紛争解決制度が強化され、違憲立法審査権にも類する強大な権限が与えられたため、国家主権が脅かされるとの懸念を米国をはじめとする各国に生じさせた。こうしたなかで、強力な司法手続に服するルールへの合意がGATTに比べ極めて困難となり、WTOのもとで開始されたドーハ・ラウンドは頓挫した。

現在の米中間で高まる通商の緊張の背景には、このような歴史がある。中国はWTO加盟により世界市場が開け、急速な経済発展を遂げるなか、米国は機能しないWTOが発展を阻害し、国内の分断を招いたと不満を強めている。

■ WTOの抱える問題と改革

WTOは関税の上限の設定により、一方的な関税引き上げを抑止することで保護主義を防ぐ重要な役割を果たしている。一方で、WTOには、経済実態と技術革新に対応した新たなルール形成も期待される。しかし、多様な国が参加するため、多くの交渉分野に一括合意する方式のもとでドーハ・ラウンドが頓挫した。ルール形成という本来の業務ができないWTOの枠組みは、むしろ経済発展の足かせである。

米国は、WTOが本来の業務を履行できない以上、紛争解決制度だけ機能させるべきではなく、また、上級委員会が「紛争解決了解」の範囲を超えて加盟国の法令の違法性を判断すべきでないとして、紛争解決制度の改革を求めている。

WTOの改革にあたっては、本来の目的に照らし、自由化の推進と新たな分野でのルール形成の機能を回復することが不可欠だが、全加盟国一致というコンセンサス原則に則る現行のWTOのもとでは、ほぼ不可能である。また、紛争解決制度の改革についての米国の批判は、WTO制度の根幹に対する批判であり、改革は容易ではない。

当面は、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)を通じて自由な経済活動の基盤を拡大することが発展の支えとなる。これがWTOにも刺激を与えることとなる。特に日本が主導したCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)は、最も先進的な協定である。参加国を拡大することで、グローバルな経済成長の原動力となろう。

【国際経済本部】

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