経団連(中西宏明会長)は2月5日、東京・大手町の経団連会館で日本労働組合総連合会(連合、神津里季生会長)と懇談会を開催し、今年の春季労使交渉をめぐる諸問題をテーマに、労使間のさまざまな課題について意見交換を行った。
冒頭のあいさつで中西会長は、「2019年は、堅調な日本経済をどのように持続し、経済成長を果たしていくべきかを考える大きな節目の年である」と述べ、経済成長を実現するために、デジタル化の波を受け止め、創造社会「Society 5.0」の実現に向けて取り組むことの重要性を強調した。そのうえで、実現には、働く者のモチベーション向上につながる職場環境の整備が必要であり、春季労使交渉は、その議論を行う絶好の機会であると指摘。「賃金引き上げを含む処遇改善のモメンタムを消さないように、しっかりと議論し、労使の合意のもと、日本経済の底力をつけていきたい」と語った。
一方、連合の神津会長は、月例賃金引き上げに強いこだわりを持ち続けるとともに、上げ幅だけでなく、これまで以上に「絶対水準」に重きを置きたいとの考えを強調した。さらに、中小企業の賃金引き上げ原資の確保に向けて、「不適切な商慣行を是正し、大手企業による取引の適正化を推進し、サプライチェーン全体で生み出した付加価値を適正に分配していくことが不可欠だ」と述べた。
続いて、連合側が「2019春季生活闘争方針」、経団連側が「2019年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」について、それぞれ説明した後、意見交換を行った。
意見交換では、不適切な商慣行の是正や、多様な人材の活躍推進に関する発言が目立った。
商慣行の是正については、連合側から、不適切な商慣行に終止符を打ち、企業体質・産業体質改善に向けた継続的な取り組みを求める意見があった。さらに、中小企業の労働生産性向上につながるとして、大手企業へさらなる理解を求める声もあった。
経団連側からは、不適切な商慣行の是正によるサプライチェーン全体での労働生産性向上が、自社の価値向上につながることを意識する必要があるとの見解を示した。
多様な人材の活躍推進については、連合側から、雇用形態にかかわらず、女性や高齢者、外国人などさまざまな人材が働きやすい職場環境を整備し、多様性のある豊かな社会を労使で目指していくべきだとの意見が出された。
経団連側からは、日本がこれまで築いてきた良好で成熟した労使関係をベースに、多様な人材が活躍できる活力に満ちた明るい社会の実現に向けて取り組んでいきたいとの発言があった。
このほか、経団連側からは、現行の職能に基づく賃金制度では、満足感や納得感が得られにくい状況が顕在化してきているとの問題意識や、イノベーションを起こす人材を確保・育成するうえで、多様で柔軟な働き方や雇用制度の実現が重要との認識を示した。
これに対して連合側からは、人材確保・育成の観点から、新たな処遇体系が必要との認識は一致しているとの発言があった。
会合の最後にあいさつした連合の神津会長は、日本の雇用社会にひずみが生じているとの問題意識を示したうえで、「労使がお互いに貫いているヒューマニズムを信頼の基盤として、一緒に社会をリードしていきたい」と語った。
中西会長は、(1)デジタル化による新たな産業構造の構築に向けた政策展開(2)女性活躍をイノベーション創出につなげるための意識改革(3)次世代における日本の雇用制度や職場環境づくり――の3点が、今後労使で議論を深めていくべき課題との見解を述べ、会合を締めくくった。
【労働政策本部】