経団連は2月19日、提言「Society 5.0実現に向けたベンチャー・エコシステムの進化」を取りまとめ公表した。
スタートアップは課題解決や価値創造に取り組む企業群であり、まさにSociety 5.0時代を担う存在として期待が寄せられる。経団連では、これまで東大・経団連ベンチャー協創会議などを通じて、スタートアップとの連携促進に取り組んできたが、連携の前提として、大企業側の意識・行動面の改革を進めることが必要と感じていた。そこで提言では、大企業のあり方にまずフォーカスして取り組むべきことを示している。
■ 背景
わが国のベンチャー・エコシステムは、大企業においてオープンイノベーション志向が高まり、資金調達環境が急激に改善、優秀な人材が続々とスタートアップ業界に流入するなど活況を呈している。しかしながら、米国や中国といったスタートアップ先進国と比較すると、ユニコーン企業(時価総額が10億ドル以上の未上場スタートアップ)の数やベンチャー投資額は大きく劣っている。
■ 大企業の目指すべき方向性
ベンチャー・エコシステムの進化に向けて大企業の目指すべき方向性は「オープンイノベーションの定着・本格化」であり、その要となるのは「アセットの解放」と「M&A」である。大企業に集積している人材、資金、技術、知識・データなどのアセットをスタートアップへと解放して成長を促進することが期待される。また、M&Aによってスタートアップの先端技術や人材などを取り込むと同時に、M&AでExit(投資回収)を果たした起業家が次世代の起業家を支援するという好循環が生まれることが期待される。
そのためには、経営層がイノベーションに対する理解を深め、「既存事業の継続・成長」と「新規事業の探索・投資・開発」を区別した経営判断を行うなど、実行面での取り組みが求められる。これを大前提として、「出島」のようなスタートアップ連携の専門組織の設置、さらにスタートアップ等へのレンタル移籍や出向等を通じた多様な人材の育成、外部人材の積極登用などの取り組みが重要である。
加えて、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やM&Aの本格化、また、オフィスや実験設備などのインフラを提供してオープンイノベーションを促進する「場」をつくるという役割も求められる。
■ 他のプレーヤーへの期待、リスクマネー拡大に向けた施策
わが国の大学・研究開発法人に対しては、医薬、バイオ、化学などのディープサイエンス系スタートアップの振興に向けて、大学等に数多く眠っているシーズを発掘しスタートアップとして顕在化・成長させるシードアクセラレーターの設置などを提案。
政府・地方公共団体に対しては、スタートアップが自由に新規事業に取り組めるよう特区の活用を含めた規制改革を求めるとともに、大企業とスタートアップとの連携促進施策として、スタートアップ連携に積極的な企業を「イノベーション銘柄」として認定する制度などを提案している。
リスクマネーの供給拡大に向けては、「地域金融機関」による地方のスタートアップ支援機能の向上、また、ESG投資(環境・社会・ガバナンス対応を踏まえた投資)を取り込むために、スタートアップにおけるSDGs(持続可能な開発目標)やESGへの取り組みに関する情報開示支援を謳っている。
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提言には、「オープンイノベーション企業度テスト」を付属(図表参照)。自社の取り組みに関する自己診断や今後の展開に向けた参考とすることを期待している。また、企業の先進的な取り組み事例を掲載しているので参考としてほしい。
【産業技術本部】