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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年3月14日 No.3400 深圳視察に見る中国の産業競争力~成長戦略と連続性の追求 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(ITジャーナリスト) 雨宮寛二

深圳の街は、共産・社会主義を象徴するような変貌を遂げていた。かつて深圳は、人口が20万人ほどの小さな町にすぎなかったが、いまや1253万人に達している。だが、その数はあくまでも公称にすぎず、今回の視察で現地の中国人に話を聞いてみると、実際の人口は、概ね2000万人に達している模様だ。

深圳は、経済特区に指定されて以来、製造業を中心に発展してきた。香港に隣接し、毎週、深圳から香港を訪れる市民も多く、訪問回数が制限されるほどだ。街は計画都市さながら、網目のように区画整理され、何車線も続く道路には、新エネルギー車を対象に発行されるグリーンナンバープレートをつけたBYDの電気自動車が何台も走っている。街じゅう至る所にシェア自転車が駐輪してあり、場所や時間を問わず利用が可能だ。

市内で開催されていた展示会「ELEXCON 2018」をのぞくと、現地企業に加え、日本などの外資出資企業も出展していた。あるローカル企業のブースでは、スマートカーのOS開発を売りにしたプレゼンが行われていた。スタートアップでもここまで開発できるのかと思って説明を聞いてみると、実際に開発製造しているのは「ポートの受け側、すなわちコネクター」であり、その他のパーツは共同開発であった。スマートカーのIoT戦略でみた場合、全体を俯瞰した各パーツの車載構成を前面に押し出すのは、売るための戦略としては長けているといえる。中国企業は、0を1にして言うのは良くないが、1を10にして言うのは悪いことではないと考えているようだ。

アリババ出資のハイテクスーパー「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)」は、市街の中心地にある高層ビルの地下にあった。生鮮食品を中心にしたスーパーだ。特に魚介類の種類が豊富で、水槽から生きたままの魚介をすくって選べる。商品に付いているバーコードをスマホにかざすと、その食品の重量や採取月日といった基本データが表示される。買いたい商品を選ぶと、店内にあるリフトですぐに運ばれ、バイク便で配送してくれる。その時間も3キロメートル以内であれば30分と迅速だ。支払い決済は、スマホの専用アプリ「フーマーシェンシェン」をダウンロードして、QRコードをかざせば完了。極めて便利だ。

盒馬鮮生は、生鮮品の種類の多さとオペレーション面からみて、在庫や配送コストがかさむため、よくて収支トントンで利益を生み出せているとは思えない。この生鮮食品の分野でのリアルの出店により、消費者の信頼を掴むことで、ネットでの販売促進につなげていくのがねらいのようだ。毎日売り切りなので品物が新鮮で、しかも値段は普通のスーパーと同程度に設定されている。新鮮で質が良いから、この店で一度購入した消費者は、安心してオンラインへ移行し購入する。実際、開店から半年でオンライン率50%となり、それ以降は70%の水準を維持している。

深圳湾イノパークには、テンセントの巨大本社ビルを始め、バイドゥやマイクロソフトなどのビルが林立している。さながら、中国のシリコンバレーを象徴するかのような光景だ。イノパークだけでもインキュベーターが60件ほど存在し、スタートアップの多くがこうした場所から生まれている。ここでは、場所と工具が使い放題で、しかも起業アドバイスも受けられる。1席の料金が月額平均1200元(約2万円)程度とお手軽だ。インキュベーターは場所やアドバイスの提供だけでは収支が黒字にならない。有望なスタートアップを見極め、集中的に投資することでキャピタルゲインを得ていることから、ハイリスク・ハイリターンの構図はここ深圳でも変わらないようだ。

深圳を訪問してわかるのは、「何でも試してみる」との発想だ。試してみて、ダメならやめる。そのサイクルも速い。展示会や華強北電気街、深圳湾イノパークでは、目新しい製品やサービスの開発を目にすることはできなかった。欧米の後追いという連続性の追求にとどまる感は否めない。深圳の発展は、正念場を迎える。

【21世紀政策研究所】

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