英国のEU離脱をめぐる不透明感が晴れない。
焦点とされた3月12~14日の英国議会の一連の採決を終えて、唯一はっきりしたことは、英国が期限どおりの離脱を断念したことだけ。14日の期限延期の動議が賛成418票対反対202票で可決された。しかし、どの程度の期間、何のための延期か、EUが受け入れるかは不透明なままだ。
■ 協定可決なら6月末に期限延期
メイ首相は、21日に始まるEU首脳会議の前日の20日までに離脱協定案を3度目の採決にかける。可決された場合、関連法案成立のため、6月末までの延長を求める。EUは短期の延長は認めるだろう。
離脱協定が否決された場合は、より長期の離脱期限の延期を求める。12日の2度目の採決も反対391対賛成242票と大差だったが、1月15日の初回(反対432対賛成202票)よりも賛成票が伸びた。13日の採決では、強硬離脱派の「管理された合意なき離脱」の動議は賛成164対反対374の大差で否決されている。メイ首相は、長期の期限延期が、関税同盟残留などのよりソフトな離脱、離脱撤回を回避したい強硬離脱派の翻意による協定可決に望みをつなぐ。
■ 合意あり離脱でも混迷続く
仮に、6月末までの期限延長による「合意あり離脱」となっても、Brexitをめぐる混迷は続く。「合意あり離脱」は、第3国となった英国とEUの将来の関係を協議する出発点にすぎないからだ。将来の関係の協議のために現状を維持する「移行期間」は2020年末まで。離脱期限を3カ月延期すれば、移行期間はその分だけ短くなる。英国とEUは、離脱協定とあわせて協議した将来の関係の政治合意という青写真でも合意している。それでも、政治合意を法的拘束力のある協定にまとめ、承認手続きを行う過程は、当初から、離脱協定よりもはるかに困難といわれてきた。
なんとか「合意あり離脱」にこぎ着けても、1年もすれば、「移行期間の延長か、協定なき移行期間終了か、アイルランドの国境管理はどうするか」という今と同じ議論で英国議会が紛糾するおそれがある。
■ もう1度民意を問う意味
Brexitをめぐる混迷の原点は16年の国民投票のキャンペーンにある。離脱推進派は、EU離脱は大きなコストを伴い、離脱の手続きも数年にわたる困難なプロセスになるという残留派の訴えを「恐怖プロジェクト」として揶揄、EUとの協定の締結は容易と一蹴した。離脱派のキャンペーンには、数々の問題があったが、最大の問題は離脱のコストに触れず、「離脱は容易」という印象を与えたことだ。国難ともいえる事態に対して、メイ首相が、超党派のコンセンサスづくりよりも、保守党の結束を優先する立場を採ってきたことも問題だ。
たとえ、「合意あり離脱」でも、英国は、EUからの離脱プロセスの完了までに、この先も多くの時間を費やすことになる。不確実性を嫌う企業が投資を手控えざるを得ず、潜在成長率の低下をもたらす。この点を曖昧にしたままで、EUを離脱し、さらに新たな関係に円滑に移行できるようには思えない。
14日の採決では、再国民投票のために必要な期限の延期を求める動議は、最大野党労働党の棄権もあり賛成85票対反対334票という大差で否決された。とはいえ、仮に離脱協定が否決ないし採決そのものができず、3カ月を超える期限延長が不可避となれば、このまま離脱手続きを進めるべきか民意を問う機会を設けることも選択肢となってくるだろう。
(3月17日脱稿)
【21世紀政策研究所】