経団連の金融・資本市場委員会資本市場部会(松山彰宏部会長)は3月22日、東京・大手町の経団連会館で「議決権行使助言会社との懇談会」を開催した。議決権行使助言会社の大手であるISSとグラス・ルイスを来賓として迎え、60名を超える経団連会員企業のIR、SR、総務担当者らが出席した。
まず、ISSの石田猛行代表取締役から、同社が株主総会議案で重視している点と2019年度の議決権行使助言方針について、続いて、グラス・ルイスの上野直子アジア・リサーチシニアディレクターから、同社の活動や今後の議決権行使助言方針の考えについて説明を聞くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。
■ ISS・石田氏
ISSは影響力があるといわれるが、議決権行使助言方針の策定にあたってはクライアントである機関投資家の意見を聞いており、助言方針は機関投資家の声が反映されたものである。ここ数年、コーポレートガバナンス・コードの導入を契機の1つとして、日本企業のガバナンスをめぐる環境が変化した。役員の選任議案をみると、ROEの5年平均が5%未満の企業の役員の支持率は下がっており、これは投資家が資本効率性を重視していることの表れである。資本効率性に対する認識については投資家と企業の間で大きなギャップがあり、今後株主提案で求められるのではないか。役員報酬については、株式報酬制度導入の流れを歓迎する一方、業績との連動性や額についての説明責任が求められている。
ISSは2019年2月総会以降、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社においては取締役会の3分の1以上が社外取締役であることを求めることとしている。一方で、独立性については、現時点では役員候補者の逼迫した需給バランスを考慮し、求めていない。
議案をより適切に精査できるよう、ISSとして、招集通知に候補者の性別、社外取締役かどうかなどを記載することをお願いしたい。
■ グラス・ルイス・上野氏
グラス・ルイスでは、顧客である機関投資家に正確な情報を提供することを重視している。その一環として、早期に招集通知を公表した企業については、企業ごとの議決権行使助言レポートを投資家に発行する前に当該企業が確認できるサービスを実施している。
グラス・ルイスでは19年度の議決権行使助言方針として、一部の上場会社に対して女性役員を最低1人求めており、20年度からはこの基準を東証一部と二部の企業に適用することとしている。背景には、他の先進国のみならず発展途上国と比較しても、日本は女性役員の比率において大きな後れをとっていることが挙げられる。対象を女性「取締役」でなく「役員」に広げているのは、将来的に取締役となる女性幹部のプールをまずは増やしてほしいという考えがある。よって同社の方針では、女性役員がゼロの場合でも、育成プログラム等今後の対応策を開示している場合には、反対助言を避ける場合があるとしている。
また、欧米では性別の議論を超えて、各取締役のスキルマトリックスなどを開示しており、今後日本企業に対してもこうした情報の開示を求める投資家が増加すると予想されるため、女性登用とスキルの多様性確保を両輪で進めていくことが求められる。
<意見交換>
後半の意見交換では、参加者から議決権行使助言会社が発行体と対話を行う姿勢について評価する意見がある一方、議決権行使助言基準の策定において企業の声が反映される余地を求める声が上がった。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】