経団連事業サービス(中西宏明会長)は3月11日、東京・大手町の経団連会館で第39回経団連昼食講演会を開催し、東京大学大学院法学政治学研究科教授の高原明生氏から講演を聞いた。概要は次のとおり。
■ 習近平主席への権力の集中と最近の中国の経済情勢
習近平氏が国家主席に選出されて6年になる。当初は支える人脈が弱いことから強力なリーダーにはなれないとの声が上がっていたが、習主席は、反腐敗闘争を梃子にして権威と権力の集中を進めた。2016年の党中央委員会総会で「核心」の称号を得、17年の党大会では後継者を指名せず、また自らの名を冠した思想を政党イデオロギーに加えた。さらに、昨年の全国人民代表大会(全人代)では国家主席の任期を撤廃するとともに、政府から党に権力を集中させる大規模な党政機構改革を行うことに成功した。これらによって、党の長老、学者、企業家、学生など各層から反発を買うことになったが、言論統制と思想教育を徹底し、批判勢力を抑え込んでいる。習主席には権力闘争に勝利した自信と裏腹に、締め付けを行わないと権力基盤が危うくなるとの強迫観念があるのではないか。
景気の悪化は政治にも影響を与えるものだが、中国経済は成長が鈍化している。昨年の経済成長率は公式には6.6%となっているが、実態はもっと低いと考えられる。今年の全人代における政府活動報告は、「長年ほとんど例がないほどの国内外の複雑で厳しい情勢に直面し、経済に下押し圧力が生じた」と率直に認めた。そこで成長を促すため、積極的な財政政策を展開している。企業の税と社会保険料の負担を大幅に軽減するとともに、鉄道・道路・水利のインフラ投資など大規模な内需拡大策を講じている。
■ 米国からの攻勢を受ける中国外交
中国に対する米国の態度が硬化している。貿易摩擦は激しさを増し、現在米国は中国に対し、技術移転強要や知的財産保護などに関する協議が決着しない限り、2000億ドル相当分の中国製品の関税率を10%から25%に引き上げると通告している。安全保障分野においても米国の強硬な姿勢が目立っており、昨年の国防報告で、米国は対外脅威の筆頭をそれまでのテロから中国に変更した。米国の攻勢に晒されながらも、中国は「米中関係の安定はすべての安定の基礎である」との従来の原則を堅持している。米国に対して、核心的な利益は譲れないが、協調的な姿勢をとり、トランプ大統領をなだめながら関係を安定させたいというのが中国のねらいであろう。
■ 今後の日中関係の展望
昨年10月、安倍首相が日本の首相として7年ぶりに中国を公式訪問した際、中国政府は安倍首相を歓待した。その際に経済分野では52もの協力覚書が交わされ、安全保障分野では「海空連絡メカニズム」をめぐりホットラインの早期開設が重要との認識で一致するなど、関係改善が進んでいる。日中関係に影響する要因は、(1)国内政治(2)経済利益(3)国民感情(4)国際環境――の4点が挙げられ、いずれをみても当面両国関係は良好に推移すると考えられる。関係を損ねる要因があるとすれば、安全保障である。中国が実力を行使して現状を変えようという姿勢を改めない限り、いずれ摩擦が起きて関係全般が緊張する。中国には自制が求められる。それを促すには、日本が抑止力を高めて中国の冒険主義を抑える一方、経済をはじめさまざまな分野で対話、協力を重ねていくことが必要である。
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