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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年8月8日 No.3419 「『適材適所』を考える―『適材』になり『適所』を選ぶことは可能か」 -法政大学の武石教授から聞く/雇用政策委員会人事・労務部会

経団連の雇用政策委員会人事・労務部会(國分裕之部会長)は7月18日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授から、「『適材適所』を考える―『適材』になり『適所』を選ぶことは可能か」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 組織主導による「適材適所」の人事の現状

多くの日本企業では、「適材」として自社に必要な人材を採用して育成し、異動により仕事経験を積み能力発揮を図る「適材適所」が重視されてきた。適材と適所のマッチングを企業が人事権を発動して組織主導で行うことには、合理性があった。

しかし、労働力人口の減少や人材の多様化、デジタル技術の進展など、企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、組織主導による人事管理の課題が顕在化している。

こうした構造変化は、労働者個人のキャリア意識とも関連している。近年、日本のワーク・エンゲージメント(ポジティブで、達成感に満ちた、活力ある心の状態)の低さが注目される。この背景には、長期的なキャリアビジョンの持ちにくさ、自身の仕事を俯瞰しにくいシングルキャリア(1つの企業・組織に依存したキャリア)の問題など、労働者個人が自発的・主体的に仕事に向き合えない状況がある。

■ 自律的なキャリア形成の重要性

これまでの人事の仕組みは、組織が必要な人材を人事権によって配置し、人材を育成して組織運営を図るという意味で、「Make型」「ブロック塀型」の人事管理ととらえられる。一方、これからは、個人が自身の今後を見据えて組織に貢献する人材に育ち、個々の多様な能力を組み合わせてパフォーマンスの発揮を目指すという意味で、「Become型」「石垣型」の方向性を考えるべきだろう。

つまり、「適材」については、組織主導の「育成」から、労働者本人がなりたい自分を目指す「キャリア開発」重視への転換が求められる。「適所」については、変化する仕事環境のなかで自分の判断基準をもって仕事を選ぶ労働者個人の柔軟性が重視される。ここでは、労働者による自律的なキャリア形成がカギとなる。自律的なキャリア意識と仕事満足感には相関関係がみられており、ワーク・エンゲージメントの改善や人材定着にもつながる。

■ 個人による「選択」と組織改革の必要性

これからの「適材適所」の人事には、組織による「選抜」に、個人による「選択」の要素をどう加えていくかが重要になる。具体的には、(1)個人の希望と経営目標・戦略の方向性とのすり合わせ(期待値「Should」の確認)(2)キャリア開発・学習支援策(成長機会「Can」の提供)(3)やりたいことを「選ぶ」というマインドセットとスキル向上(「Will」の支援)(4)個人が適材に「なる」「選べる」ための仕組み――が必要である。

労働者個人のキャリア自律や「選択」を許容することは、人事権のあり方の見直しを促すことにもなる。また、組織における全体最適の確保や、キャリア自律が難しい個人への対応など、検討すべき課題も多い。しかし、こうした人事・組織変革は、「Society 5.0」の実現にもつながっていくだろう。

【労働政策本部】

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