経団連(中西宏明会長)は8月8日、都内でスタートアップ委員会(泉谷直木委員長、永野毅委員長、髙橋誠委員長)の第1回会合を開催した。泉谷委員長から同委員会の設置趣旨等を説明するとともに、アジア最大級の大企業・スタートアップマッチングイベント「イノベーションリーダーズサミット(ILS)」を主催・運営するプロジェクトニッポンの松谷卓也代表からスタートアップエコシステム構築に向けた取り組みについて説明を聞いた。概要は次のとおり。
■ スタートアップ委員会について(泉谷委員長)
昨年11月の提言「Society 5.0 ―ともに創造する未来―」(2018年11月15日号既報)のなかで、ビジョンを掲げて課題解決・価値創造に取り組むスタートアップこそがSociety 5.0実現の担い手であるとの期待を表明しており、スタートアップ振興をより一層進めるべく同委員会を今年5月に設置した。
同委員会の下部組織として企画部会とスタートアップ政策タスクフォース(出雲充座長)を設置し、(1)スタートアップ振興のための環境整備(2)スタートアップと大企業の連携促進――を目的として活動する。
企画部会では、スタートアップ振興のための施策の検討に加えて、スタートアップから経団連に強い期待が寄せられている大企業の役員レベルへのアクセスを実現すべく、ハイレベルのネットワーキング会合を今秋から開催する予定である。
スタートアップ政策タスクフォースでは、経団連非会員も含めたスタートアップをメンバーとし、経団連が扱うさまざまな政策テーマについてワンストップで議論してスタートアップとしての意見を取りまとめる。8月5日には、意見書「スタートアップの成長を促進する上場市場のあり方について」をタスクフォースのクレジットで公表している。
より一層のスタートアップ振興に向けて委員の皆さまのご協力をお願いしたい。
■ スタートアップエコシステムの構築に向けて(松谷氏)
わが国でイノベーションが生まれにくい大きな理由は、人材流動性が低く、アカデミア(技術)、スタートアップ(起業家精神)、大企業(資金・販路)の3者が混ざり合わないことにある。そこで、大企業とスタートアップのコラボレーションを加速すべく、2014年、経済産業省の後援のもとでILSが発足した。
ILSではこれまでに500社を超えるスタートアップと100社を超える大企業をマッチングし、1000件以上の協業案件を創出してきた。また、スタートアップが選ぶイノベーティブ企業ランキングを18年から公表しており、KDDIが2年連続で首位となっている。
スタートアップとの協業では大企業の階層ごとに役割がある。経営トップにはVC(ベンチャーキャピタル)ファンドへの出資、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の設置、戦略投資枠の機関決定などスタートアップ連携の取り組みを会社としてコミットメントすることが求められる。担当役員の役割としては、社内の各部署が求める技術やシーズの粒度や時間軸の違いを理解して協業担当チームを編成しリードすることが重要。協業担当チームには、社内各部署のキーマンを商談に同席させるよう働きかけることが求められる。
日本のスタートアップと大企業とのマッチングの基盤はできつつあるが、これだけでは全く不十分である。まず、わが国のリスクマネーの規模は米国の50分の1にすぎない。また、ユニコーンスタートアップといわれるゲームチェンジャーは、米国193社、中国96社に対し、日本はわずか3社である。つまり、世界のスタートアップのエコシステムという観点ではわが国は蚊帳の外にある。他方、東京ほど大企業が集積している都市は他にない。日本の大企業がオープン化し、望む技術やソリューションを世界に向けて発信すれば、世界中のスタートアップや投資家を引き付けて、東京にグローバルなスタートアップエコシステムを構築することができると考える。その実現に向けて経団連スタートアップ委員会とも連携していきたい。
【産業技術本部】