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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年9月12日 No.3422 トランプ政権の通商政策ならびに米国の産業構造の変遷と最近の動向 -山縣立教大学教授、藤木和歌山大学准教授との懇談会/ワシントン・リポート<64>

経団連米国事務所は9月3日、山縣宏之立教大学経済学部教授、藤木剛康和歌山大学経済学部准教授のワシントンDC訪問の機会をとらえ、トランプ政権の通商政策ならびにトランプ現象の経済的背景としての米国の産業構造の変遷や最近の動向について説明を聞くとともに意見交換を行った。両氏の説明の概要は次のとおり。

■ トランプ政権の通商政策(藤木氏)

トランプ政権誕生以来、米国の通商政策は大きく変化した。政策決定過程における対立や混乱が生じていることから、通商政策の全体像を描くのは困難であるが、これまでの大国の通商政策を分類する4つの類型に基づいて、トランプ政権の通商政策を分析することができる。整理の仕方としては、(1)国境での関税や数量規制を念頭に置く20世紀的な重商主義に基づくアプローチ(2)自由貿易主義に基づく20世紀的な覇権国家のアプローチ(3)グローバルサプライチェーンにおける新たな規範を中心にする21世紀的な覇権国家のアプローチ(4)地政学的戦略を重視する21世紀的な大国のアプローチ――である。

トランプ大統領は就任以来、米国への製造基盤の回帰ならびに貿易赤字の減少を目標に掲げ、二国間での関税交渉を推進するとともに、鉄鋼・アルミ製品に対する関税、米中貿易戦争、自動車関税、WTO改革等を行ってきた。位置づけとしては、関税や数量制限の手段が多用されており全体としては重商主義的である。しかし同時に、対中国との関係で強硬姿勢をとる一方、EUや日本といった同盟国に対しても貿易赤字の削減や自動車輸出の数量規制などを求めており、一貫性や体系性がみられない。

トランプ政権の通商政策は予見可能性を欠いていることが大きな特徴の一つである。その要因として公正貿易・貿易赤字削減を主張する大統領と、中国との戦略的競争に焦点を当てた政策を主張する大統領スタッフとの間で意見が分かれており、どちらが主要な動きであるかが不明確なことが指摘できる。今後のトランプ政権の通商政策は依然として流動的であるといえる。

■ トランプ現象の経済的背景(山縣氏)

トランプ現象の背景として、ラストベルトの支持が指摘されているが、実際には同地域のなかでも大統領の支持にはばらつきがあり、まだら模様である。先の大統領選挙において、都市部のイノベーションが進んでいる地域ではクリントン候補の支持が多かったことが判明している。

2010年から18年の米国の産業構造の変化を見ると、製造業は付加価値の絶対額は大きいものの増加率は高くない。その傾向はトランプ大統領が就任後も変化していない。また、製造業の雇用者数はリーマンショック以前の水準まで回復していないのが現状である。就業者構成としては、17年時点で製造業は約10%に減少する一方でサービス業への就業者が主軸になっている。生産性上昇率の高い製造業の従業者は相対的に減少する一方で、生産性上昇率の低いサービス業や商業のウエートが増加し、さらにサービス業内部でも相対的低賃金就業者が増加している。

ラストベルトとは、「重厚長大産業を中心とした製造業が衰退した地域」といわれるが、ラストベルト内での製造業従業者比率は依然として高く、知識集約型ビジネスサービス分野は米国平均ほど発展していない。また、個人消費も米国平均よりも低い状況である。ラストベルトにおける失業労働者は輸送業などに移った人が大半であり、給与が高い分野に移動できた人はごくわずかである。例えば、ペンシルベニア州のピッツバーグのように知識集約型ビジネスサービスへの産業構造の転換に成功している地域もあるが、それは大都市圏に集中しており、製造業の労働者の再就職には有利に作用していないのが現状である。

製造業の労働者に関する政策に焦点を当てているトランプ大統領の戦略は、米国の製造業の推移を長い目で見た場合、過渡的なものであるといえる。

【米国事務所】

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